全固体電池の積層ラミネートセルの試作生産設備

 日産自動車は8日、全固体電池の積層ラミネートセルを試作生産する設備を公開した。総合研究所(神奈川県横須賀市)内に設置したもので、2024年度までに横浜工場(横浜市神奈川区)内に設置する全固体電池のパイロットラインで量産試作する仕様の材料や設計、製造プロセスを検討する。日産は28年度までに自社開発の全固体電池を搭載した電気自動車(EV)を市場投入する予定で、今後は実用化に向けた研究開発を加速する。

 日産では全固体電池の開発に向け、電池材料やプロセスの設計・評価・解析に関わる各分野の専門家や大学と共同研究を進めている。

 全固体電池は、さまざまな材料を選択できる優位性を持つが、一方で多くの組み合わせが存在する。このため先端の人工知能(AI)と材料科学を掛け合わせた「マテリアルズ・インフォマティクス」を導入し、人が探索するよりも速いプロセスでの開発を狙っている。ここでは米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)と米航空宇宙局(NASA)とパートナーを組んでいる。

 UCSDと研究しているのが正極活物質の表面の劣化を防ぐ材料だ。イオン伝導率を下げずに固体電解質の劣化を防ぐコーティング材料をAIを駆使して絞り込む。

 一方、NASAとは負極で発生する析出現象(デンドライト)による短絡や性能劣化を防ぐための保護層に最適な材料を探る。土井三浩常務執行役員総合研究所所長は、全固体電池の開発に向けた課題の一つに「固体と固体の界面の反応が非常に複雑で材料探しが難しくなること」を挙げる。パートナーの先端計算科学を活用して従来は5~20年ほどかかる材料の実験的検証期間を2~3年程度に短縮するという。

 このほか、米パデュー大学とはセル設計に関わる重要な要素技術を一緒に研究している。

 これらの研究開発では例えば、1㍑当たり1千ワット時の高エネルギー密度での充放電動作を実証したほか、急速充電性能は目標とする液体のリチウムイオン電池に対して約3倍の急速充電をほぼ達成するなどの成果が表れている。

 全固体電池では硫化物系固体電解質を使用するため、硫化水素ガスが発生する可能性がある。今回の積層ラミネートセルは社内で釘刺し試験を実施し、発火や硫化水素発生ともに暴走するモードに至らないことを検証するなど、液体のリチウムイオン電池開発の知見を生かした安全信頼性項目を専用設備で分析・評価する。

 積層ラミネートセルの試作ラボでは、全固体電池の大型化や量産化に向けて、多様なSOC(充電率)帯域や使用温度範囲、耐性、品質機能バランスなどを検証する。

 日産は全固体電池のポテンシャルとして、液体のリチウムイオン電池に対して航続距離を2倍、充電時間を3分の1、バッテリーコストも28年度に1㌔㍗時当たり75㌦まで低減する可能性があると見込む。

 昨年11月に発表した長期ビジョン「ニッサンアンビション2030」で掲げた28年度までの自社開発の全固体電池の市場投入に向け、今後も研究開発を加速する。