ホンダは12日、2030年までに年間200万台超の電気自動車(EV)を製造できる生産体制を構築すると発表した。同年までに30車種のEVを世界で発売する。電動化とソフトウエアを中心に研究開発に今後10年で約8兆円を投じ、EVシフトと同時にソフトとハードを融合した商品の開発を強化。従来の売り切り型ビジネスからの脱却を目指す。EVは電池のコストが高く、当面はEV単体で収益を確保しにくい状況が続く。ビジネスモデルをソフトの付加価値追求も含めたリカーリング型(循環型)へと転換し、EV時代の収益モデルをつくり上げる。
昨年4月、40年に新車販売の全てをEVと燃料電池車にする方針を掲げてから1年。投資家などから具体策の乏しさを指摘されてきたなかで、今回、30年に向けた詳細な電動化戦略を示した。
これまで30年には先進国のゼロエミッション車の比率を40%に引き上げる方針を掲げていたが、グローバル生産約500万台のうち200万台をEVの生産に充てる。中国では現地の合弁会社と24年にEV専用工場を新設する方針だが、新たに北米にもEV専用ラインを設置する方針を示した。ゼネラル・モーターズ(GM)とも生産拠点を相互活用し、EVの生産体制を強化する。
EVの需要が拡大する中、調達競争が激化する液体リチウムイオン電池の戦略も発表した。北米向けはGM、中国向けは寧徳時代新能源科技(CATL)から採用するのに加え、日本で24年に発売する軽EVにはエンビジョンAESC製を採用する。軽EVは商用車から展開し、100万円台に価格を抑える方針。30年までにはグローバルで160㌐㍗時分の電池を調達する計画だが、北米のGM製だけでは供給力が不足する可能性があるため、別の電池メーカーと合弁で生産子会社の設立も検討する。
一方、20年代後半に実用化する方針を示していた全固体電池は、430億円を投じて量産化に向けたパイロットラインを栃木県さくら市に24年春に立ち上げる。
「自由な移動の喜びを環境負荷ゼロで提供したい」(三部敏宏社長)とEVシフトを推進するホンダだが、EVへの傾斜による経営体質の悪化も懸念される。ホンダはこれまで生産拠点の閉鎖や派生車種の削減で収益率向上を目指してきたが、主力の四輪事業の利益率改善は道半ばだ。
電池のコストなどで利益を確保しにくいEVにシフトしながら、ホンダが目標に掲げる営業利益率7%を達成するため、鍵になるのがビジネスモデルの転換だ。ビジネスモデルの転換に向けて、26年に自社開発した車載OSや電子プラットフォームなどで構成する「ホンダeアーキテクチャー」の展開を開始し、OTA(無線通信によるアップデート)や収集したデータを活用した新規ビジネスによる収益改善を図る。10年で8兆円の研究開発費のうち電動化とソフトウエアに5兆円と多くを振り向けることでEVシフトとビジネスモデルの転換を加速する考えだ。
電動化戦略の中ではスポーツモデルを20年代半ばに日本を含むグローバルに投入する方針も示した。他社との提携を加速する一方、走りにこだわった独自の電動車も投入し、ホンダらしさも打ち出す。