事業規模縮小に動くメーカーも

 ただ、ステランティスがかつてのダイムラークライスラーと同じ道をたどらないとは言い切れない。新会社は世界30カ国以上に拠点を展開し、約40万人の従業員を抱える。小型車、上級車、SUV、スポーティーモデルなど、幅広い車種を展開し、プジョー、フィアット、ジープ、ダッジ、マセラティなど、14ものブランドを持つ巨大自動車メーカーだが、主力市場が欧州、北米、中南米に偏っている。特に欧州の販売比率が5割以上を占めており、地域補完効果は見通せない。しかも将来的な自動車市場の成長が見込まれているインドや中国など、アジアでは存在感が薄い。ブランドについても14もあってもメジャーなものは限られる。

 PSAとFCAは経営統合に伴って工場閉鎖しないことを明言しており、経営効率の面でも統合のメリットは限られる。年間約50億ユーロのシナジー効果を見込むが、このうちの4割が車台共通化で実現する計画で、効果が表面化するまでには時間を要する。そして新会社の業績を早期に安定させないと、電動化や自動運転などの先進技術への投資も限られ、シナジー効果の創出も難しくなる。厳しい競争環境の中、ステランティスが将来的に生き残れるという保証は何もない。

 巨大化することで生き残りの道を選んだ自動車メーカーがある裏で、事業規模縮小に動く自動車メーカーもある。ダイムラーはトラック・バス部門のスピンオフを決定した。ダイムラーは2019年に、持株会社の傘下に乗用車部門のメルセデス・ベンツ、トラック・バス部門のダイムラー・トラック、販売金融部門のダイムラー・モビリティを置く形に組織改正した。今回、さらに一歩進めて持株会社とメルセデス・ベンツを統合するとともに、ダイムラー・トラックを切り離すことにした。

 ダイムラーが商用車部門を分離するのは、乗用車との共通点が少なくなっていることが背景にある。例えば環境対応車として乗用車では電気自動車(EV)への対応は待ったなしの状況だが、商用車、中でも大型トラックの電動化では、大量の電池を搭載しなければならなくて現実的ではない。このため、商用車では燃料電池車(FCV)の開発が加速しているが、ダイムラーでは20年4月に乗用車部門のメルセデス・ベンツがFCVの開発中止を公表している。

 ダイムラーは相乗効果が見込めないトラック・バス部門を完全に切り離すことで、電動化や自動運転など、自動車業界の潮流に経営資源を集中させる。

 電動化や自動運転など、自動車業界の変革に対応するため、ステランティスのように巨大化する自動車メーカーがある一方で、ダイムラーのようにスリム化することで生き残りを目指す企業もある。どの方法が正しいのかは、歴史が証明するだろう。それでも自動車業界はこれまで経験したことないスピードで変化することが予想されているだけに、新しい時代に対応したアライアンスのあり方を模索し、そして実践していかなければ衰退するリスクは高くなる。

(編集委員 野元政宏)