世界4位の自動車メーカーとなったステランティスのエルカン会長(右)とタバレスCEO
ダイムラーは商用車部門をスピンオフして規模縮小へ

 自動車業界の再編が活発化してきた。グループPSAとフィアット・クライスラー・オートモビルズ(FCA)の経営統合が1月18日に完了し、合併会社「ステランティス」が正式に発足した。2019年の世界販売実績を基にすると、フォルクスワーゲン(VW)グループ、トヨタ自動車グループ、ルノー・日産自動車・三菱自動車に次ぐ、世界4位の自動車メーカーとなる。一方で、ダイムラーはトラック・バス部門を切り離して独立させることを決定、事業規模を縮小して乗用車に経営資源を集中する。脱炭素社会に向けた電動化や、自動運転技術の急速な進化など、かつて経験したことのない変革の波にさらされている自動車メーカー。規模拡大か、選択と集中か、生き残りに向けた模索が続く。

分野絞った緩やかな提携が主流

 今から20年以上前の1998年にドイツに本社を置くダイムラー・ベンツと、米国に本社を置くクライスラーが合併したのを機に、世界的に自動車メーカー同士のM&A(合併・買収)が加速した。当時「400万台クラブ」と称され、年間販売台数が400万台以下の自動車メーカーは淘汰されると盛んに言われた。しかし、業界再編が一巡すると、M&Aで誕生した自動車連合のほとんどが、計画していたほどの収益力や販売台数の上積みなど、シナジー効果が得られていないことが明確になり、買収した自動車メーカーが経営の重しになるケースも少なくない状況に陥った。

 業界再編の象徴だったダイムラークライスラーは07年、業績不振だったクライスラー部門を分離して株式の大部分をファンドに売却し、「世紀の大合併」は失敗に終わった。その後、リーマンショックによる経済危機で、自動車各社の業績が急激に悪化すると、資本提携も相次いで解消されていった。

 「規模のメリット」の追求が失敗に終わったことから、M&Aで巨大化しても経営効率向上などの成果を得るのは困難との見方が自動車業界に広がった。そして、いつでも関係を解消できるように資本提携には踏み込まないか、少数の出資にとどめ、分野を絞った緩やかな提携が現在の主流だ。

 こうした中にあって、ステランティスの母体であるPSA、FCAはともに、「規模のメリット」を追求している異例の存在だ。ダイムラーと分離後、経営不振に陥っていたクライスラーが米連邦破産法11条を適用されると、フィアットは経営支援に名乗りを上げて出資し、14年にはクライスラーを完全子会社化、その後にフィアットと合併してFCAとなった。FCAは、破談となったものの、今回のPSAと合併を交渉する前、ルノーに経営統合を打診した経緯もある。

 PSAも、ルノー・日産から移籍したカルロス・タバレスCEO(最高経営責任者)の主導で、M&A戦略を積極的に推進してきた。14年に中国の東風汽車と資本提携したほか、17年にはゼネラル・モーターズ(GM)からオペル/ボクソールを買収して規模を拡大した。

 PSA、FCAがM&Aを積極的に推進するのは、電動化や自動運転などの自動車業界のトレンドに対応しなければ生き残れなくなるとの危機感が背景にあるからだ。脱・炭素社会に向けて自動車の燃費規制などが世界的に強化される中、自動車メーカーは電動化対応を強く迫られる。また、先進運転支援システムや自動運転技術も急速に進化しており、環境に優しく、安全で快適なクルマづくりが自動車メーカーの生き残りを左右する。そして、これら新しい分野に対応するためには、巨額の研究開発投資が必要となる。加えて、単独でこれらの新技術に対応していくのは不可能で、幅広い企業や研究機関などと連携していくことが欠かせない。

 それだけではない。業界のトレンドが電動化や自動運転など、デジタル技術に移行することで、競争環境も変わる。巨額な資金を持つIT大手などの異業種が、自動車市場への参入機会をうかがっており、技術や資金に乏しい自動車メーカーは淘汰されかねない状況だ。

 ここ数年では珍しい大型合併によって誕生したステランティスは、経営統合による業務の効率化や量産効果に加え、PSAとFCA両社の技術力を結集して、電動化や自動運転などの技術のレベルアップを図ることを目指している。ステランティスのジョン・エルカン会長は「事業規模と世界的展開により、最先端のテクノロジー、優れた品質、他にない選択肢を提供するための投資が可能になる」と、シナジー効果を強調する。