2017年8月の会見で握手するマツダの小飼社長(当時)とトヨタの豊田社長

 マツダがトヨタ自動車との関係を深めている。マツダの2020年4~9月期の連結業績は、新車販売低迷などの影響で、当期損益が930億円の赤字だった。足元の新車販売は回復しているとはいえ、米国生産工場の新設や欧州をはじめとする厳しい環境規制に対応するための電動化の遅れなど、先行き懸念材料も少なくない。この難局を乗り切るため、トヨタを頼りとするマツダ。両社の関係は変化するのか。

遅れる回復、厳しい先行き

 マツダの藤原清志副社長は先日の決算発表電話会見で、記者から業績不振の理由を問われ、荒い口調で「(7~9月期は)想定以上に成果は上がっている」と強気の姿勢を示した。今期のマツダの業績は、4~6月期が453億円の営業赤字だったのに対して7~9月期は76億円の赤字と、赤字幅は大幅に改善した。しかし、多くの自動車メーカーが7~9月期は営業黒字化している中、マツダの収益は依然として水面下にある。7~9月期の新車販売台数も前年同期比12%減で、他社と比べた回復の遅れは鮮明だ。

 先行きも厳しい。経営の重しとなりそうなのが米国アラバマ州に建設しているトヨタとの合弁工場だ。マツダ・トヨタ・マニュファクチャリングは今年8月、最新設備を導入するため、投資額を当初計画から8億3000万ドル(約870億円)積み増すことを決定し、投資総額が約23億ドル(約2420億円)に膨れ上がる。21年稼働後の新工場がマツダにとって大きな負担となる可能性がある。

 マツダのグローバル生産能力は年間約160万台。合弁工場のマツダ生産分は年産15万台で、グローバルでの生産能力は175万台となる。マツダはコロナ禍以前から新車販売が低迷していたこともあって20年度のグローバル販売台数は130万台となる見込み。米国工場の稼働後、北米販売を大幅に伸ばさなければ稼働率低下につながりかねない。

環境規制対応も懸念材料

 マツダのもう一つの懸念材料が世界的に強化されている環境規制対応だ。マツダは「内燃機関を極める」ことに主眼を置いてきたことから、電動化に遅れた。ロータリーエンジンを活用した電動車両のラインアップを20年から展開する予定だったが、開発の遅れで本格展開は22年以降となる。20年春に投入する予定だったFR(前エンジン・後輪駆動)プラットフォームに、48ボルトマイルドハイブリッドシステムと縦置き直列6気筒エンジンを搭載するラージモデルの投入時期も22年度以降にずれ込む。ラージモデルに設定する予定だったプラグインハイブリッド車の投入も大幅に遅れる。

 欧州では燃費規制が20、21年と段階的に強化される。マツダは企業平均燃費基準が未達成で、このままでは巨額な罰金が科される。規制では二酸化炭素(CO2)排出量が基準を1グラムオーバーするごとに台当たり95 ユーロ の罰金となる。基準に少しでも近づけるため、マツダは欧州市場に電気自動車(EV)「MX-30」を投入したのに加え、「マツダ6」のディーゼル車の販売中止や、SUVの一部モデルを値上げするなど、燃費の悪いモデルの販売を抑制している。

 マツダが業績悪化を受けて見直した中期経営計画では、トヨタによるマツダ支援が相次ぐ。トヨタがハイブリッド車(HV)の拡販で欧州燃費規制の基準に余裕があるため、グループで平均燃費を合算できる「オープンプール」を19年に続いて20年も適用することで合意、マツダは罰金支払いを免除される見通し。

 マツダはトヨタから「ヤリス」のHVをOEM(相手先ブランドによる生産)供給してもらう。欧州で低燃費のHVを販売して、平均CO2排出量を引き下げる。

 環境規制が強化されている中国市場向けには、トヨタのハイブリッドシステムを搭載したモデルを販売する予定だ。米国新工場で生産する新型SUVにもトヨタのハイブリッドシステムを搭載したモデルを設定し、販売を伸ばす計画。米国工場のマツダ車生産増を支援する。

「ウィンウィン」目標のはずが

 15年5月のマツダとトヨタの業務提携の記者会見で、当時マツダ社長だった小飼雅道氏は、提携で「商品をさらに高いレベルに引き上げる」とし、トヨタの豊田章男社長も「(顧客に)どうしてもこのクルマが欲しいと、思ってもらえるクルマをつくることが最大の目的」と、商品力や技術力を互いに高めていくことを目指していた。17年に資本提携した時も、同額を相互出資するなど、対等な関係にこだわってきた。中期経営計画の見直しでは、業績悪化に苦しむマツダをトヨタが支援する事業が相次ぐ。両社の対等な関係を維持できるのか、マツダは正念場を迎える。

(編集委員 野元 政宏)