2日のオンライン調印式の様子(写真左が日産の内田誠社長、右が浪江町の吉田数博町長)

 日産自動車は2日、福島県浪江町をはじめ県内3自治体や8企業で「福島県浜通り地域における新しいモビリティを活用したまちづくり連携協定」を締結したと発表した。東日本大震災からまもなく10年が経過し、同県内の自治体で復興に向けた取り組みが進む中、電気自動車(EV)を柱に据えた移動やエネルギー支援で地域住民の暮らしを支える。2月に浪江町内で巡回シャトルや貨客混載の配達サービスの実証を行う。地産の再生可能エネルギーの活用も進める。構築したモデルは他の地域にも応用する考えだ。

 浪江町、双葉町、南相馬市に加え、福島日産自動車、日産プリンス福島販売、フォーアールエナジー、イオン東北、日本郵便東北支社など8企業で協業する。移動とエネルギーの領域で、それぞれのノウハウを持ち寄り持続可能なまちづくりを目指す。2日の調印式で内田誠社長は「人口減少や過疎化、環境問題があるが、新しいまちが課題解決の先進的なモデルケースとなることが8社共通の思いだ。地域の皆さんと一緒に、最後まで責任をもってまちづくりをしていく」と語った。

 日産はこれまでに、福島イノベーション・コースト構想推進機構が進めるプロジェクトに携わり、「リーフ」を使ったカーシェアリングサービスを展開するほか、浪江町にEVの使用済みリチウムイオン電池の再利用に特化した工場を開所するなど、さまざまな面で復興支援を進めてきた。

 来月で東日本大震災の発生から10年を迎える。福島県浪江町は17年3月に避難指示が一部解除され、住宅や学校、商業施設の再開などが進む。復興に伴い、人の往来の増加も見込める一方、高齢化に伴う移動手段の確保や運行サービスの採算性が課題となっている。

 まずは早期に移動手段を確立するため、今年からEVを用いたカーシェアリング「eシェアモビ」を浪江駅前に導入し、短期出張者などのニーズに対応する。22年からは、飲食店からの移動を考慮したEV代行運転やシャトルバスの検討に入る。これらのサービスには同じEVを活用することを想定し、昼夜で役割を分けるなど「二毛作により採算を確保する」(土井三浩常務執行役員)狙い。脱炭素化も同時に進め、今年から、EV充電に地産の再エネ利用100%を目指す。

 併せて、経済産業省の「スマートモビリティチャレンジ」の枠組みで、自治体や企業と連携した新モビリティサービスの展開を進める。2月8~20日にかけて浪江町内で実証実験を行う。道の駅を起点に、リーフ3台と「eNV200改」2台を使って、同町中心部を巡回するシャトルと住宅地のある周辺部向けの移動を提供。専用アプリで簡単に配車できるよう工夫し、受容性などを探る。イオンなどと連携し、貨客混載による買い物配達サービスの有効性も検証する。

 みなとみらい地区での無人運転技術を使った配車サービス「イージーライド」の実績を生かした自動運転デモを15~20日にかけて浪江町中心部で行う。

 日産は浪江町での実証をもとに得た技術やノウハウは他地域にも横展開する方針。土井常務執行役員は「今回の技術はどこでも適用できるようデザインした」とし、構築したプラットフォームをもとに地域ごとにアレンジして応用する考えだ。