「インドの危機は本物で、(スズキとして)大変な危機として受け止めている」(スズキ・鈴木修会長)ースズキが26日に発表した2020年3月期連結業績は、インドなどの四輪車販売が低迷したことなどから営業利益が前年同期比33・7%減の2151億円と、ライバル他社と比べても大きく落ち込んだ。今期業績見通しは「未定」とするが、新型コロナウイルス感染拡大の収束が見通せない中、インドに軸足を置いてきたスズキの経営戦略が揺らいでいる。

スズキにとって世界販売全体の半分を占めるインドの四輪車販売は、昨年から低調だった。そこに新型コロナウイルス感染症の影響が追い打ちをかけて同18・1%減の143万6千台と2割近いマイナスとなった。インドの連結子会社マルチ・スズキ・インディアの20年3月期の営業利益(円換算)は同54・1%減と半減、インド事業がスズキの業績全体の足を大きく引っ張った。

スズキはインドに世界の自動車各社が見向きもしていない1980年代に外資系ではいち早く進出。これによって現在世界5位の自動車市場でシェア50%の高いポジションを堅持している。スズキは政府の政策変更や経済の不安定など、リスクの高い新興市場に早期に進出し、市場とともに成長する戦略をとってきた。そしてこれが最も成功したのがインドだ。

しかし、新型コロナウイルスの影響がインド市場を直撃、スズキの業績先行きは厳しい。インドでは3月23日からロックダウン(都市封鎖)が実施されたことから、マルチ・スズキの4月の新車販売がゼロとなり、5月も1万台前後にとどまる見込み。現在もインド国内にある販売店3千拠点のうち、1千店は制約を受けており、市場回復は見通せない状況で、スズキの業績の大きな懸念材料となっている。

スズキとしてもインド一極集中に対する危機感は強くもっている。鈴木会長は「三本足、四本足、五本足に切り替えたいが、実力がなくて(インド)一本足だった」と率直に認める。新型コロナウイルスの影響を最初に受けながら、その後、新車市場が回復傾向にある中国市場からスズキは18年に撤退。インド以外もスズキの四輪車販売は苦戦している。20年3月期の新車販売でパキスタンは同35・1%減、インドネシアが同5・7%減、タイが同11・4%減と、インド以外もスズキの海外の主力市場は総崩れに近い状況で、インド依存度を下げる取り組みが成功しているとは言い難い。

インドの市場環境が悪化する中、スズキはインド北西部に新設し、20年4月に操業予定だったグジャラート第3工場の稼働を再度延期。操業開始は未定だ。30年にインド新車市場が1千万台に成長することを前提に、インド国内の生産能力を500万台にまで段階的に引き上げていく長期構想についても「新型コロナウイルスの影響で市場が変化している。シェア50%以上を前提にした工場の稼働やリニューアルに取り組む」(スズキ・鈴木俊宏社長)と、長期計画の見直しも視野に入れる。

「ピンチはチャンスに変えられる。幾多のピンチを経験してきたので自信をもって行動し、チームスズキ一丸となって頑張る」(鈴木会長)とするスズキ。インド市場の急変はインド一本足からの脱却するチャンスとなるかもしれない。
(編集委員 野元政宏)