スバルの業績が急激に悪化する懸念が高まっている。18日発表した2020年3月期連結業績は増収増益だったものの、期末配当を1株当たり28円(前年同期実績は72円)と、従来予想から44円減配する。米国で新型コロナウイルスによる自動車市場への影響が甚大で、米国に依存してきたスバルの今期業績を直撃する見通し。新型コロナウイルスの影響は業界他社よりも深刻になりそうで、手元資金を確保するなどして危機に備える。


スバルが18日に発表した20年3月期連結業績は、米国の販売が順調だったことから全世界販売台数が同3・3%増の103万4千台となり、売上高が同6%増の3兆3441億円、営業利益が同15・7%増の2103億円と、増収増益だった。主力の米国で新型コロナウイルス感染拡大による市場減速が3月中旬だったことから、20年3月期業績への影響は限定的だったためだ。中村知美社長兼CEO(最高経営責任者)は「計画を若干下回ったが評価したい」と述べたものの、そこに安堵感はない。


米国の感染者数は150万人に迫っており、死者数も9万人近くで、ともに世界最大。しかも米国の中でもスバルのシェアの高い州で感染者数が多い。直近では全米での感染者数は減少傾向にあり、一部で経済再開の動きもあるが、パンデミックの「第二波」が到来するとの見方も強い。スバルは新車販売全体の7割を米国に依存しており、新型コロナウイルス感染拡大による業績への影響は深刻だ。今期業績見通しは感染の収束時期が不透明で合理的な算定が困難として「未定」とした。しかし、足元ではすでに影響が出ている。


スバルの国内生産拠点は4月9日から、米国工場は3月23日からそれぞれ稼働を停止した。5月11日から再開したものの、国内生産拠点は昼勤のみの1直で、米国工場も通常よりペースを大幅に落として生産調整している。スバルの米国の販売拠点は現在も6割が制約を受けており、正常化する時期は見通せない状況だ。
スバルが先行きに強い危機感を持つのは米国市場の需要だけではない。落ち込んだ市場のカンフル剤としてインセンティブ(販売奨励金)が増大するリスクが高まっている。「他銘柄ではすでに7年間金利0%ローンで、しかも6カ月支払期間猶予などが打ち出されている」(中村社長)という。スバルは米国市場でインセンティブを抑制することでブランドイメージを向上、高い利益率を確保して業績を伸ばしてきた。市場のインセンティブ競争に巻き込まれれば、業績が急激に悪化する。


米国での中古車販売低迷による中古車価格の急落も懸念材料だ。中古車価格が下落すると、自動車メーカーの金融部門はローンやリースの損失を抱える。スバルの顧客は個人が中心だが、それでもマイナス影響は避けられない。
これら米国市場の変調で危機的な状況に陥ることを避けるため、スバルは対策に乗り出している。インセンティブをコントロールするため、日本、米国で積極的に生産調整して在庫を削減、5月までの減産規模は15万台を超える。


財務面では手元資金が8590億円あるが、借入金と社債でさらに1千億円を調達し、金融機関との間で約2千億円のコミットメントラインを設定した。「新型コロナで事業活動に多大な影響が及ぶ資金需要に備える」(中村社長)。増収増益でも期末配当を大幅減配するのもこの一環で、執行役員以上の報酬などを自主返納して危機に備える覚悟を内外に示す。

スバルでは、米国一極集中に対する危機感を持っていなかったわけではない。得意のSUVが人気の中国やロシア、豪州で販売を増やしてポートフォリオを拡充する意向を持っていたが、米国市場を最優先した商品開発が定着しており「簡単に構図を変えることができない」(中村社長)のが実態だ。新型コロナウイルス感染拡大という未曽有の危機によって、長年手つかずだった米国一本足打法の大きな代償を支払うことになりかねない。
(編集委員 野元政宏)