三菱自動車が19日発表した2020年3月期連結業績は、当期損失が258億円と、3年ぶりに赤字に転落した。新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあったが、固定費の増加や、販売低迷という構造的な問題を抱えている。当面の対策として固定費削減や、投資先の絞り込みに打って出る。アライアンスパートナーの日産自動車は業績が悪化しており、支援も見込めない中、三菱自の経営立て直しの道筋は見えてこないままだ。

三菱自は17年度から19年度までの中期経営計画「ドライブ・フォー・グロース」で、メガマーケットを志向した全方位拡大戦略を掲げ、設備と研究開発投資を大幅増額し、販売台数と売上げを大幅に増やす計画だった。しかし、欧米のメガマーケット市場では競争激化で販売費がかさみ、台当たり収益が大幅に悪化した。一方で、ASEAN地域では販売台数、収益ともに伸ばしてきた。


このため、18年後半から身の丈に合った規模で収益を重視する「スモールバットビューティフル」路線に転換した。しかし、19年度は販売台数が想定以上に低迷した上に、研究開発費や間接員の人件費増加が大きな負担となって業績が悪化した。そこに新型コロナウイルス感染拡大の影響が追い打ちをかけて最終赤字となった。


三菱自は今回の業績発表で、経営を立て直すための新しい中期経営計画の発表を見送った。新型コロナウイルスの収束が見通せないためで、8月上旬ごろ20年4-6月期業績を発表と同時に策定する予定。ただ「21年度までは固定費を削減する構造改革と、ASEANに集中する」(三菱自・加藤隆雄社長兼CEO)ことを柱とする方針だ。

前期は固定費が大きく膨らんだことが業績悪化の主因となった。15年度に1千億円だった研究開発費は19年度には1300億円と3割増加した。国内の間接部門の人員も4年間で2千人増えて9千人となるなど、固定費全体が1.3倍に増えた。

このため、固定費削減が緊喫の課題として、今後2年間で20%以上、額にして1000億円規模のコストを削減して、15年度水準に引き下げる。人員の削減も視野に入れる。商品開発ではコア市場であるASEAN向けモデルに絞り込み、商品戦略を抜本的に見直す。販促活動も重点市場に集中して販売管理費を削減、経営をスリム化する。「収益性の低い地域の商品縮小を考えていたが、新型コロナでこれを加速する」(加藤社長)構えで、選択と集中の徹底を図る。

新型コロナウイルス問題が自動車メーカー各社の業績を直撃しているが、多くの自動車メーカーは、出遅れが命取りになりかねない自動運転や電動化などの自動車業界のトレンドへの対応や、将来成長の種となる研究開発費だけは削減しない方針を明確に打ち出している。三菱自が研究開発費のカットにまで踏み込めるのはアライアンスパートナーの存在があるからだ。三菱自は自動運転やコネクテッド技術で、日産を頼りにしている。


19日の決算発表会見で今後の成長戦略を問われた加藤社長は何度も「27日まで待って欲しい」と述べた。27日に日産が中期経営計画の見直しを発表、これに合わせてルノー、三菱自の3社アライアンスの再建計画を発表するからだ。三菱自はアライアンスで「ASEANエリアでの貢献を考えている」(加藤社長)としている。ただ、日産、ルノーも業績不振となっている中、ウィンーウィンの施策を打ち出すのは困難と見られる。加藤社長は「収益確保できる分野に絞り込むことで、競争を勝ち抜いていける」と生き残りに自信を示すが、先行き楽観視できる状況にない。

(編集委員 野元政宏)