いすゞ自動車が生き残りをかけた戦略を加速している。自動車業界のトレンドであるCASE(コネクテッド・自動運転・シェアリング・電動化)対応で遅れないため、他社と提携する上での障害となっていたトヨタ自動車との資本提携を絶妙のタイミングで解消すると、大型商用車で世界2位のボルボグループ(ボルボトラック)との提携をまとめた。ボルボグループのUDトラックスを傘下に収め、長年の課題となっていた国内商用車市場で主導権を握る構えだ。2015年にいすゞ社長に就任した片山正則氏の機を逃さないしたたかな戦略が見え隠れする。
「商用車メーカーとの協業が最も効率的」―いすゞは2019年12月18日、スウェーデン・ボルボグループと戦略的提携することで合意したと発表、記者会見でいすゞの片山社長は、実を結ばなかったトヨタとの資本提携の失敗を踏まえ、商用車メーカーとの提携にこだわったことを示した。
いすゞはゼネラルモーターズ(GM)と長年にわたって資本提携していたが、GMが業績不振に陥ったことからいすゞ株式を売却、2006年に資本提携を解消した。いすゞはその後、トヨタと資本提携し、欧州市場向け小型ディーゼルエンジンの共同開発に着手したものの、トヨタの方針転換もあって実用化されなかった。両社の提携事業は全く進まない中、トヨタがいすゞ株式を保有し続けるだけという微妙な関係が続いた。
いすゞの主要な顧客である物流業界はインターネット通販市場の拡大による輸送需要の増加、ドライバー不足と高齢化など、大きな課題を抱えている。ドライバー不足の解決には隊列走行を含む自動運転がキーとなる。また、コネクテッドトラックを実現すれば配送を効率化できる。これらの先進技術に対応するには多額の研究開発投資が必要だ。そして投資を分担するとともに、各社が持つ技術やノウハウを持ち寄って、自動運転やコネクテッド技術を迅速に実用化するためにはアライアンスが必要不可欠で、商用車も業界再編が加速している。
国内商用車メーカーでは三菱ふそうトラック・バスがダイムラー、UDトラックスがボルボグループのそれぞれ傘下にあり、日野自動車がフォルクスワーゲン(VW)グループと包括提携している。いすゞを除く3社は外資の大手商用車メーカーをアライアンスパートナーとして確保している中、トヨタとの資本提携が障害となって取り残されていたいすゞは焦りを感じていた。
風向きが変わったのは自動車産業が100年に1度と言われる変革期に入り、トヨタもこの対応を迫られたためだ。世界最大級の自動車メーカーのトヨタでさえ、CASEにすべて単独で対応するのは困難で、グループ内外の企業との連携を加速している。CASE関連の投資が膨らむ中、意義のない株式をトヨタが売却したがっているとの意向を敏感に察したいすゞは、トヨタとの関係解消に動いた。
そして2018年8月に約12年間にわたるトヨタの足かせが外れたいすゞは即座に動く。2018年末にボルボグループに提携を打診。小型トラック、アジアに強いいすゞと、大型トラック、欧米に基盤を持つボルボグループは「補完関係にある」(片山社長)ことから交渉は順調に進んだという。
いすゞとボルボグループの提携で、最大の障害となりそうなのが、いすゞと同じ日本に基盤を持つUDトラックスの存在だ。ただ、いすゞは、ボルボグループとの提携を機に長年の課題解決に結びつけることにした。いすゞは2020年末までにUDトラックスの全株式を取得して傘下に収める。買収価格は2500億円程度になる見込みで、「割高」と見る向きが強いが、UDトラックスをいすゞが買収するのはボルボグループと提携の条件だったと見られる。それでも、いすゞはUDトラックスの買収をネガティブに見てはいない。
「買収と報道されたが、そんな気はない。対等の精神でともに協力していきましょう」―いすゞの片山社長はボルボグループとの提携発表後、UDトラックスに出向いて社員向けにメッセージを送ったという。いすゞはUDトラックスを買収することで、普通トラック市場で日野自動車を抜いてシェアトップとなる。国内の普通トラック市場は年間10万台弱の市場に、商用車メーカー4社がひしめくという激戦市場で、トラックの国内新車市場の低い利益率は業界の長年の課題だった。いすゞは、UDトラックスの買収を機に車種の統合を進めるとともに、過当競争から距離を置き、国内市場向け普通トラックの採算改善を図る構えだ。
いすゞのUDトラックス買収では、もう一つの狙いがある。全国に展開しているUDトラックスのネットワークだ。いすゞはトラックに情報端末の標準搭載を進めている。コネクテッドトラックからリアルタイム車両データを収集し、これを点検・整備に活用することや、積み荷情報を活用した新たなサービス創出を視野に入れる。一方で、国内の商用車業界は、メカニック不足がネットワークを拡充する上での大きな課題となっている。片山社長は「(コネクテッドトラックの)メンテナンスに関して、いすゞは苦しんでおり(UDトラックスに)助けて欲しい」と述べ、UDトラックスの買収によって、いすゞグループとしてのネットワークを拡充できるメリットを強調する。業績不振のUDトラックスの買収が「割高」となるのか「適正」なのかは、いすゞがUDトラックスをどう有効活用できるかにかかっている。
いすゞは商用車業界では、単独で生き残るのは厳しい規模でありながら、自動運転や電動化技術で先行しているボルボグループとの提携に漕ぎつけ、土壇場で生き残る道を見出した。UDトラックスとスムーズに連携しながらボルボグループの中で独自の存在感を打ち出せるかが次の課題となる。