「数年後の自分は、どんなセールスパーソンになっていたい?」。とある自動車販売店で働く2年目のセールスパーソンにたずねてみました。するとその若手は、唐突な質問に戸惑いながらも上を見上げ考えていましたが、はっきりとした答えが返ってきません。続いて別の若手セールスパーソンに同じ質問をしても、やはり反応は同じ。両者に共通することは、目標がなく、何となく毎日を過ごしている自分に焦りを感じていることでした。同じような悩みを抱えている若者が多いのかもしれません。

しかし、今、自分の将来の姿や目標が描けていないことは、必ずしも悪いことではありません。言い換えれば、現状ではまだ方向性が固まっていないだけなのです。目標を持たずに働いていることを否定的にとらえる声もあるかもしれませんが、実際にはまだ模索している段階に過ぎないのです。

「目標を持て」と言われても、目標は突然見つかるものではないのです。毎日の仕事の中での小さな気付きの積み重ねから、少しずつ目標が定まっていきます。まだ目標がないこの時期は、自分を俯瞰して、関心があることや苦手なことを知る貴重な時間でもあるのです。だからこそ、今の時間を大切にして、毎日の業務やお客さまとのふれあいの中で、自分の得意なことや好きなことを少しずつ見つけていくことが大切です。

例えば「お客さまとコミュニケーションを取るのが好き」「新商品のことを調べるとつい没頭してしまう」「分かりやすい資料を作るのが好き」など、そのような小さな気付きが、やがて将来像や目標につながっていきます。焦って無理に目標を決めようとするよりも、毎日の仕事の中で小さな成果を見つけて積み重ねていく方がよっぽど有意義ではありませんか?

そんな中でもお勧めしたいのが、上司や先輩から話を聞く時間を持つことです。自分よりも経験豊富な他者の経験や考えに触れることで、意外と将来の目標につながるヒントが得られます。自分とは異なる視点を取り入れることで、新しい方向性が見えてくる可能性は十分にあります。

今は何となくでも大丈夫です。時間を積み重ねていく中で「こんな風になりたいな」「これをもっと深めたい!」という思いが自然と芽生えてきます。目標がないからと言って焦ることはないです。かえって焦ることで見えにくくなってしまいます。時間をかけて本当の目標が見つかった時に、自分の成長を心から喜べます。その過程での失敗や迷いは、自分らしさを形づくる貴重な経験となります。

今はまだ目標がない自分を責める必要はありません。自分の歩幅で一歩ずつ進んでいくことが、自動車販売店の現場で長く働き続ける力になります。大切なのは、自分を知ること。多くの経験を重ねていくことです。

今日の仕事を一つひとつ丁寧にやり切って、日々の新しい発見を積み重ねていきましょう。きっとその積み重ねが、やがてあなたの大きな目標につながっていきます。

 

文:株式会社プログレス 江原忠宏

〈プロフィル〉えはら・ただひろ 2006年東海大学電子情報学部卒、同年国産ディーラー入社。営業職、店長を務めるも、17年5月輸入車ディーラーに転職。入社2年目に係長昇進、3年連続で販売優秀者表彰。その後人材育成にやりがいを見出し、20年プログレス入社。「人材を『人財』に」をテーマに活動中。静岡県出身、41歳。