カタログを熱心に眺め、必要な箇所はノートに書き写す。研修などで教えてもらった商品知識も頭に詰め込み準備は万端。会社からの商品知識テストも問題なく合格し、週末の来店されるお客さまが待ち遠しい…。ところが、商談が始まり、覚えた知識を余すことなくお客さまへ伝えたが、お客さまの反応はイマイチ。それどころか、素っ気ない返事をされてジレンマを感じた経験はありませんか?

なぜ、覚えた知識を伝えてもお客さまの心に響かなかったのでしょうか? さまざまな要因があるかも知れませんが、その中の一つにセールスパーソンがお客さまに提供したものは「情報」であり、「価値」ではなかった、ということがあります。お客さまが自動車販売店に求めるものは情報ではなく、価値なのです。

例えば、燃費を気にされているお客さまがいます。お客さまに「うちのクルマの燃費は〇〇km/Lも走るんです」と数値を伝えたところで、実際にガソリン代がどのくらい節約になり、ランニングコストがどの程度改善するのかを実感できなければ価値を感じることは難しいのです。要するに、単に数値の説明だけではお客さまのベネフィットに落とし込めていません。お客さまの困り事をどのように解消し、いかに想い描いている理想へ近づけるのかイメージさせることが大切なのです。

もう一つ大切なことは、話し上手になるために「聞き上手」になることです。新しいことを覚えたセールスパーソンは、ついお客さまへ伝えたくなってしまいます。しかし、覚えた知識をお客さまへ響かせるためには、まずは聞くことが大切なのです。お客さまが何故そのクルマを選んでいるのか?それを手に入れて何がしたいのか?それに対して現状はどのような状況なのか?そこにはどんなギャップが起こっているのか? 詳細な情報を手に入れることで、より具体的な商品説明を行うことが可能になります。

せっかく覚えた知識が、お客さまに上手く伝わらないという悩みは多くの若手が直面するステップです。伝える力を身につけるのは簡単なことではないですが、日々の商談の振り返りをきちんと行っていくことで必ず磨かれていくものです。

知識はただの材料にしかすぎません。大切なのは、目に前にいるお客さまの素敵なカーライフのためにどう知識を生かすかです。知識をどう生かすかに気付いた時こそ、セールスパーソンとしての成長が始まります。悩みを抱えた今こそ、その第一歩を踏み出す大切な時期なのです。そのことに気付けたのなら、悩みはやる気へと変わることでしょう。

 

文:株式会社プログレス 江原忠宏

〈プロフィル〉えはら・ただひろ 2006年東海大学電子情報学部卒、同年国産ディーラー入社。営業職、店長を務めるも、17年5月輸入車ディーラーに転職。入社2年目に係長昇進、3年連続で販売優秀者表彰。その後人材育成にやりがいを見出し、20年プログレス入社。「人材を『人財』に」をテーマに活動中。静岡県出身、41歳。