OBD(車載式故障診断装置)検査の本格運用が始まって間もなく1年。2024年10月からOBD検査が行われたのは累計31万4140台(25年8月末時点、自動車技術総合機構まとめ)だが、ディーラーや整備事業者で実際に手掛けた割合は、多くても車検入庫の1%程度とみられる。少ないところだと数台にとどまっているケースもある。ただ、当初心配されていた対象車の受け入れや作業自体は、スムーズに行われているもよう。本格導入前に1年をかけて行った「プレ運用」を活用してきた事業者が少なくないためで、滞りなく1年目を乗り切ろうとしている。
福井自動車(東京都千代田区)の土田千恵社長は、OBD検査の対象車両が車検で入庫しても「プレ運用と同じように、何も問題なくできている」と話す。同社では本格運用の前から、対象外の車両でもOBDによる確認を行うなど作業の経験を積み重ねてきた。土田社長はすべての入庫車両が「(OBD検査の)対象になっても大丈夫」と自信を見せる。ツカサ工業(佐藤憲司社長、長野県大町市)も同様に、プレ運用の時点から入念な準備を行ってきた。これにより、対象車が入庫しても同社の手順に基づいてスムーズに作業を終えられるようになっているという。
対象車のOBD検査漏れを防ぐ仕組みづくりも進んでいる。ツカサ工業では導入している整備業の支援システムと、入庫の受け付けを担当する担当者、自動車検査員の3段階で確認するようにしている。佐藤社長は対象車が未実施になるのは、「手順としてありえない」とする。カマド(小林雅彦社長、静岡県御殿場市)も顧客管理システムで対象車を把握した上で、該当する顧客には電話で直接伝えている。
一方、OBD検査における不具合の割合は8月末時点で、4.5%(自動車技術総合機構)だった。
埼玉日産(白土貴久社長、さいたま市中央区)では8月までに430台のOBD検査を行ったが、不適合が出たのは他銘柄車の1台だけ。この車は近隣の取り扱いディーラーに修理を依頼し、その後再検査で対応したという。同社によると、日産車であれば不適合が出た場合に自店で修理できるものの、他銘柄車は最寄りの他系列のディーラーに持ち込む必要があるとしている。他銘柄車に対応するためには汎用スキャンツールを導入する必要があるが、日産車の入庫が多いことから、使用頻度との兼ね合いで検討中としている。
本格運用の2年目を迎えるに当たり、整備現場の不安は何か。埼玉日産は、OBD検査用サーバーに接続できない場合の特例措置への対応を挙げる。対策はすでに社内に展開しているものの、「スムーズな対応ができるかどうかは、実際にやってみないと分からない」と、小幡哲也サービス技術室長は語る。ただ、「検査対象が増えることには不安がない」としており、プレ運用で適切に準備してきた事業者の多くは同様の認識を持っている。
また、10月には輸入車でも本格運用が始まる。福井自動車の土田社長は、「輸入車への対応が一番心配」としている。整備情報システム「ファイネス」に輸入車の整備マニュアルはなく、同社が所有しているスキャンツールで修理が行えないからだ。修理してもOBD検査で不適合が改善されなければ、修理と再検査を繰り返さざるを得なくなる事態を懸念している。
事故によって発生した、故障に該当する情報(特定DTC)が消去されないまま納車されることで、OBD検査に影響を与える可能性もある。特定DTCが残ったままではOBD検査は不適合になり、修理などの対応が必要となる。所有者からすれば「事故で壊れたところを直しただけなのに、車検が通らないのはなぜか」という話になるからだ。カマドの荻田康光専務は「事故を起こした車が、どこまでしっかり修理してあるかが心配だ」としている。
OBD検査は今後、輸入車が対象に加わり、対象台数がさらに増加するのは間違いない。しかし、特定DTCが検出されてからの対応は、ほとんどの事業者が未体験だ。プレ運用と同様に、早めの準備が大切になりそうだ。
月刊「整備戦略」10月号では特集企画「2年目の課題と展望―OBD検査から」を掲載します。