トヨタ自動車は、21、22日にドイツで行われた「ニュルブルクリンク24時間レース」に参戦した。今回はトヨタのモータースポーツ活動を担うトヨタガズーレーシング(TGR)と、豊田章男会長がオーナーを務めるルーキーレーシング(RR)が融合した新チーム「TGRR(トヨタガズールーキーレーシング)」で出場。豊田会長が〝モリゾウ〟としてステアリングを握った「GRヤリス」は目標だった完走を果たした。TGRRとして初挑戦し、「道が人を鍛え、クルマを鍛える」というクルマづくりの原点に立ち返る。
結果ではなくプロセス
トヨタがニュル24時間レースに参加するのは2019年以来6年ぶり。今回は、TGRRという新チームで出場した。
チーム結成の狙いは原点回帰。結果が求められる世界ラリー選手権(WRC)などのワークス活動とは異なり、ニュルに参戦するのは「人とクルマを鍛える」ことが目的。07年の初参戦時から最も重要視してきた価値だ。
豊田会長は「参戦目的は07年からブレてはいないが、年を重ねるごとにその規模は良くも悪くも大きくなり、本来の趣旨とは違う方向に進もうとする流れがあったのも事実。だからこそ、今原点に戻るべきだと思った。レースというとすぐに結果を求める人がいるが、そこに至るプロセスが重要だ」とTGRRで参戦する意義を強調する。
車両開発の聖地
ニュルでのレースはその過酷さで知られている。距離は1周約25㌔㍍と長く、標高差も約300㍍ある。大小170を超えるコーナーで構成され、路面も波打つようにうねる。約2㌔㍍の超高速ストレートに、ジャンプスポットもある。左右の重力加速度(G)に加え、上下からのGもかかる。厳しい走行環境がそろうことから「車両開発の聖地」とも呼ばれる。
トヨタは今回のレースに、8速AT「GR-DAT(ダイレクト・オートマチック・トランスミッション)」を搭載したGRヤリスと、「GRスープラGT4 Evo2」で参戦した。GRヤリスのドライバーは、豊田会長のほか、豊田会長の息子でウーブン・バイ・トヨタのシニア・バイス・プレジデントを務める豊田大輔氏、プロレーシングドライバーの石浦宏明氏と大嶋和也氏の4人とした。
TGRとRRが日本のスーパー耐久シリーズで進めてきた「壊しては直す」クルマづくりをニュルでも実践した。国内のサーキットで事前テストを重ねても、ニュルでは想定できないようなトラブルが発生するという。
今回は、エンジニアリーダーに33歳の久富圭氏を抜擢した。ニュルは初挑戦で、周りのエンジニアやメカニックは先輩ばかりとなった。かつてのニュルを知るベテランと、初めて挑戦する若手でチームを構成し、ドライバーとエンジニア、メカニックが三位一体となることで人材育成につなげている。
いつかは総合優勝も
トヨタがニュルに初参戦したのは07年だが、会社の正式プロジェクトではなかった。「トヨタ」を名乗ることが許されず、インターネットサイト「GAZOO.com(ガズードットコム)」のコンテンツとして出場した。
車両は中古のスポーツセダン「アルテッツァ」。他メーカーは数年後に市販する開発車両を走らせている状況だった。トヨタを名乗れず、中古車での参戦。誰からも認められない悔しさが、豊田会長が「もっといいクルマづくり」を言い続ける原点となった。その後、トヨタのニュルへの挑戦は「LFA」「86」「RCF」「LC」「GRスープラ」「GRヤリス」へと引き継がれた。
今回、エンジンやトランスミッションがノーマル、しかも車両価格が500万円程度のGRヤリスが完走したことに、現地ドイツでは大きな衝撃をもって受け止められた。これまで市販車状態でニュルのレースを完走できるのはポルシェぐらいだと言われてきたためだ。トヨタ独自開発のスポーツカーが持つ信頼性とパフォーマンスの高さを、世界一過酷なサーキットで証明する結果となった。
22日、最後の出走を終えた豊田会長はオウンドメディア「トヨタイムズスポーツ」に出演し「いつかメード・バイ・トヨタの車で、TGRRで総合優勝したい」と発言。その上で「正式発表がいつかは分からないけど…」と、現在開発中のGT3マシンの登場に含みを持たせた。
(編集委員・水町 友洋)