新型は名機「EJ型」のコンセプトを継承するという
「新しい標準エンジンをつくっている」と語ったスバルの藤貫CTO
BYDも発電専用エンジンとして水平対向に着目した

 スバルが水平対向エンジンの新機種を開発している。キーワードは「柔軟性」だ。1機種で幅広い車種や燃料、モーターとの組み合わせに対応させ、電動化への移行期を乗り切る重責を担う。

 同社で最高技術責任者(CTO)を務める藤貫哲郎専務執行役員が、スーパー耐久シリーズ富士24時間レース(5月30~6月1日、富士スピードウェイ)の会場で「新しい標準エンジンをつくっている」と語った。

 水平対向エンジンは、クランクシャフトを挟み、シリーンダーを左右対称に寝かせて配置する。ボクシング選手が打ち合うようにピストンが動くことから「ボクサーエンジン」とも呼ばれる。エンジン位置を低くでき、車両の運動性能が高まるほか、向かい合うピストンがお互いの慣性を打ち消し合うため、振動が少ないことも利点だ。課題は割高なコストや整備性などが挙げられる。

 現在、水平対向エンジンを持つのは他にポルシェとBMW(二輪車)だけだったが、今年に入って中国・比亜迪(BYD)がプラグインハイブリッド車(PHV)の発電専用エンジンとして開発し、注目された。高さを抑えられる利点に着目し、電動駆動ユニット「eアクスル」の上部に重ねて配置することでシステム全体を小型・軽量化。高級ブランド「仰望(ヤンワン)」「U7」に搭載する。水平対向エンジンのスポーティーなイメージも販売促進に役立てているようだ。

 スバルは小型車をFF(前輪駆動)化するために水平対向エンジンを開発し、1966年発売の「スバル1000」に初搭載。以来、60年近くに及ぶ開発・生産の歴史を持つ。過去には水平対向6気筒エンジンやディーゼルエンジンも持っていた。

 しかし、水平対向6気筒やディーゼルは10年代後半に順次、廃止していく。初代「レガシィ」から採用し、モータースポーツでも活躍して名機と呼ばれた「EJ20型」の生産も19年末に終了。現在はガソリン4気筒(FA、FB、CBの各型)の3機種が残る。このうち、最も新しいのが2代目「レヴォーグ」に搭載したCB型だ。リーンバーン(希薄燃焼)を採用して熱効率を最大40%まで高めた。EJ型の生産終了もあり、好事家からは「CB型が最後の水平対向エンジンになるのでは」との声も出ていた。

 藤貫CTOは「この先、内燃機関の数は少なくなるかもしれない」と予想する。新エンジンでは柔軟性を高める代わりに共通部品を増やし、原価や生産性を大幅に改善。現行の3機種を新型エンジンに切り替えていく。群馬周辺に集積するエンジンサプライヤーが事業を継続しやすくする狙いもある。

 導入時期やエンジンの仕様については明言を避けた藤貫CTOだが、開発コンセプトについては「EJ型なのかも」と語った。ガソリンにバイオエタノールを20%混ぜた「E20」への対応も視野に入れているという。

 EV逆風下で内燃機関の脱炭素技術が再び注目される中、スバルは強みを持つ水平対向エンジンの〝火〟を絶やさないよう開発と生産を続けていく。

(編集委員・福井 友則)