防府工場ではAGVが多様なパワートレインを組み付け位置まで自動搬送する

 マツダは、2027年に発売する電気自動車(EV)を防府第2工場(山口県防府市)で既存車種と混流生産する。3月に公表した「ライトアセット戦略」の一環だ。「一括企画」「コモンアーキテクチャー(共通構造)」など、さまざまな工夫で多彩な車種と経営を両立させてきたマツダ。複数のパワートレインが不可欠な〝電動化の黎明(れいめい)期〟もライトアセット戦略で勝ち残る考えだ。

 3万点の部品で構成される自動車。EVは部品点数が3分の2になる上、電池やモーターなど主要部品の配置制約がガソリン車より少ない。このため、車体部品を一体成形する「ギガキャスト」など、これまでの発想にとらわれない生産技術が次々と登場している。テスラや比亜迪(BYD)などはゼロから工場をつくれるため、こうした生産技術で先行した。

 ホンダやスバルは、EV専用の工場や生産ラインを新設して追撃する構えだが、マツダは防府工場での混流生産を選択した。第2工場は、稼ぎ頭である「ラージ商品群」4車種のプラグインハイブリッド車(PHV)からマイルドハイブリッド車(HV)、ガソリン車をすでに混流生産している。

 複数あるパワートレインの搭載工程では、無人搬送車(AGV)が車体に合わせてタイミングよく移動しながら自動で組み付けていく。EVを追加生産するためには、重さ数百㌔㌘ある電池を同じようにAGVで移動させながら組み付ける必要がある。しかし、生産技術担当の弘中武都常務執行役員は「ベース(の生産技術)は準備できている」と話す。

 一般論として、混流生産は混流の〝度合い〟が増すほど生産効率が落ちる。一方で防府工場の場合、EV専用ラインを新設する場合と比べ、設備投資は85%削減できる。EV販売が右肩上がりで増えれば別だが、現実は違う。弘中常務は「いったん入れた設備は使い続け、100%稼働させることが投資回収につながる」と話す。

 ライトアセット戦略は工場内だけにとどまらない。EVに載せる電池は、セル(単電池)をパナソニックエナジーの大阪府内の工場から調達し、山口県岩国市の新工場で車種ごとの電池パックに仕上げる。岩国市は防府工場と本社工場(広島県府中町)の中間に位置する。将来、本社工場でEVを生産する上でも都合が良い。

 マツダはまた、電動駆動ユニットやインバーター、モーターといったEV基幹部品の開発で、オンドやヒロテック、今仙電機製作所など共同出資会社を持つ。地場で築いたサプライチェーン(供給網)で電動車シフトを進めるためだ。ただし、世界で戦える競争力を持つことが前提だ。このため、防府工場では制御デバイスへのソフトウエアの書き込みを無線化し、調達網内の部品在庫を4分の1に減らした。こうしたサプライヤーとの「共創活動」で部品の競争力を高め、EVのコストを減らしたり、パワートレインごとの需要変動に追随したりしていく。

 年産120万台余りと、業界の「スモールプレーヤー」を自認するマツダ。市場ニーズが多様化する中、〝豊作貧乏〟から何とか脱しようと06年ごろから開発と生産が連携し「ものづくり革新」が始まった。今は調達先と連携した「ものづくり革新2.0」の効果を刈り取るフェーズだ。毛籠勝弘社長も「時間が経つに連れ、さらに大きな効果を生む」と期待する。社内には生成AI(人工知能)の活用など「3.0」に向けたアイデアもあるという。

 電動化や知能化の移行期は、投資と回収のタイミングが極めて読みにくい混迷の時代でもある。マツダは資産効率にこだわりつつ、ものづくり革新の精神をサプライチェーン全体に広げ、この移行期を乗り切る考えだ。

(中村 俊甫)