マレリホールディングス(HD)の経営が再び混乱に陥っている。3年前に1兆1330億円の負債を抱えて民事再生法による簡易再生を申請し、米国投資ファンド、KKRの支援で経営再建を進めてきた。しかし、主取引先である日産自動車、ステランティスの生産低迷に加え、企業価値の早期最大化を求める外資系金融機関などと、数年先の受注を目指して動く製造業との〝目線〟の違いが鮮明だ。インドのサプライヤーであるマザーサン・グループが支援に名乗りを上げたが、復活への道のりは険しい。
KKRは、日産系サプライヤーのカルソニックカンセイを2016年に買収。18年にはフィアット・クライスラー・オートモービルズ(現ステランティス)傘下にあったイタリアの部品メーカーのマニエッティ・マレリも買収した。翌年、両社を経営統合して発足したのが今のマレリHDだ。
統合でメガサプライヤーを目指したが、リストラに手間取るうちに日産やステランティスからの受注が減って経営が悪化。私的整理である「事業再生ADR(裁判外紛争解決手続き)」を使って再建を目指したが、外資系金融機関の一部が反対し、22年夏には法的整理である簡易再生へ移行した。その後、引き続きKKRをスポンサーとして追浜工場(神奈川県横須賀市)を閉鎖したり、遊休資産を売却するなどのリストラを進めてきた。
しかし、マレリの総売上高のそれぞれ3割を占める日産、ステランティスの新車販売がともに低迷し、苦境から抜け出せない。昨年12月には簡易再生で猶予されてきた債務の最初の返済期限が到来したが、猶予を繰り返し受け、抜本的な再建策もまとまらない状態が続く。
再建の方向性が見えない理由のひとつは、メインバンクであるみずほ銀行などと、マレリの金融債権を買い取った外資系金融機関や投資ファンドの足並みが乱れているためだ。みずほ銀などはマレリ経営陣の意向も汲み取り、リストラを進めつつ、自動車技術の進化に対応する投資に重点を置くよう主張。これに対し外資系金融機関などは、債務をまず返済し、足元の企業価値の引き上げを優先することを求めているという。
マレリは、コックピットモジュール部品などのサブラインを日産の工場内に持つなど、日産にとって欠かせないサプライヤーの1社だ。東京商工リサーチによると、グループで全国2942社もの取引先も抱える。一方でみずほ銀は日産のメインバンクでもある。マレリの危機は日産の再建や地域経済にも多大な影響を及ぼすだけに、譲れない一線があるようだ。
こうした中、マレリの経営再建にマザーサンが支援を表明した。同業なら技術投資の大切さを理解していると見て、マレリの経営陣やみずほ銀も賛同しているもようだ。24年にホンダ系サプライヤーだった八千代工業(現マザーサンヤチヨ・オートモーティブシステムズ)を買収した後もホンダ出身のトップに経営を任せていることも評価されている。ただ「マザーサンの買収提案は選択肢の一つ。決して一択ではなく、ほかの選択肢も検討されている」(関係者)との情報もある。
今のところ「仕入れ先などとは円滑に取引している」(マレリ関係者)というが、仕入れ先から先払いを求められ、入金までの時間差で「手元資金は不足気味」との情報もある。主取引先の日産、ステランティスの生産も回復する見通しは立っていない。マザーサンのマレリ買収には債権者全員の同意が必要で、ハードルは決して低くない。予断を許さない状況が続く。
(編集委員・野元 政宏)