買収が成功すれば日産との取引拡大も視野に入る(イメージ)

 経営再建中の大手自動車部品メーカー、マレリホールディングス(HD)に、インドの同業大手、マザーサン・グループが買収を提案している。マレリは提案を受け入れる方針で、マザーサンをスポンサーとする私的整理の計画などが債権者間で協議されている。マレリは「安定的な株主構成を含め、経営再建に向けて様々な検討をしている」とコメントした。日本でも市光工業の事業を取得したり、八千代工業を傘下に収めるなどしてきたマザーサンは、事業経営基盤のさらなる強化を狙っているもようだ。

 マザーサンは以前にもマレリに買収を打診した経緯がある。今回の計画でマザーサンは、米投資ファンドKKRから保有するマレリ株式の譲渡を受けるほか、みずほ銀行、国際協力銀行、ファンドなど約10社が持つ債権を、すべて買い取る方向で調整しているとされる。

 KKRからの譲渡に当たり、株の価値はゼロと算定される見込み。さらに、マザーサンはマレリに1千億円を出資し、金融機関の債権(合わせて約6500億円)を額面の2割の価格で購入する計画。さらに過去の融資関連などを含め、計2800億円規模の資金を拠出する計画となる。

 今のマレリは、前身にあたる旧カルソニックカンセイをKKRが2017年に買収し、19年に旧マニエッティ・マレリと統合して誕生した。その後、リストラの遅れや日産自動車の減産、コロナ禍などの影響で業績が悪化し、1兆1千億円超の負債を抱え、民事再生の一種である「簡易再生」で、22年から再建を進めてきた。

 しかし、その後も日産やステランティスの生産低迷などで業績が上向かず、追加支援として毎月、返済猶予を受ける状態が続く。

 こうした中、買収を柱にした再建案が浮上した。ただ、私的整理は債権者全員の同意が必要で、協議が成立しなかった場合、法的整理に入る可能性も残る。

 マザーサンは、世界の自動車部品メーカー売上高ランキングで25位。仮にマレリと合わせると売上高230億㌦(約3.3兆円)前後と、独コンチネンタルや米カミンズに近い10位以内が視野に入る規模になる。同社は、自社のオーガニックな成長と協業、M&A(企業の合併・買収)という3本柱を経営方針に掲げている。この一環で、世界各地で活発なM&Aを進めている。

 日系企業とも関係があり、日本では近年、市光工業のミラー事業や、ホンダの連結子会社だった八千代工業(現マザーサンヤチヨ・オートモーティブシステムズ)を傘下に収めるなどしている。また、インドに進出したスズキとも協業をしているほか、マレリとも旧カルソニックカンセイ時代から取引があり、22年に経営が悪化した際には支援を検討した経緯がある。

 マザーサンは「多様化」を経営の軸に掲げており、納入先や製品ポートフォリオなどが偏らないようにしている。同社のIR資料には納入先として20社以上の自動車メーカーが紹介され、売上高比率は最も高いメルセデス・ベンツでも10%、以下、フォルクスワーゲン(9%)、アウディ(8%)、BMW(6%)、マルチ・スズキ(5%)などと続く。中央集権ではなく、地域ごとに意志決定を分散させる仕組みも持つ。

 同社はマレリを買収することで、納入先トップ20に入っていない日産を含め、顧客や製品群をさらに多様化させる狙いがあるとみられる。インドの地元紙は「マレリは日産やステランティスの主要サプライヤーで、買収が成功すれば、マザーサンは大きな飛躍を遂げ、世界のトップ自動車部品サプライヤーに位置づけられるようになる」と指摘している。