日産自動車が全固体リチウムイオン電池の実証工場(パイロットプラント)を今年3月に稼働させたことが分かった。同社は、リストラの一環としてリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池工場の建設を中止するなど開発や生産投資を全面的に見直している最中だ。しかし、電動化時代の競争軸となる全固体電池は、予定通り2028年度の実用化を目指す。
全固体電池は、正極材と負極材の間にある「電解質」を固体にした電池。現在、主流の液体系リチウムイオン電池に比べ、およそ2倍の性能を出せ、安全で寿命も長い。日産は容量1㍑当たり1千㍗時のエネルギー密度を開発目標とする。液体系リチウムイオン電池の理論限界とされる1㍑当たり800㍗時を上回る性能を実現できる。
車載用の液体系リチウムイオン電池開発で競合をリードしてきた同社は、全固体でも横浜工場(横浜市神奈川区)に実証工場を建設し、昨夏から製造設備などの設置を進めていた。今年度からは電池モジュールの試作と評価を始め、26年度末には量産化へのメドをつける計画だ。同年度までの研究開発費は総額で約153億円。このうち約98億円を新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「グリーンイノベーション基金」が補助している。
しかし、同社は前期に6708億円の最終赤字を計上し、4月に経営陣を刷新した。イヴァン・エスピノーサ新社長は再建計画を翌月13日に公表。2万人の人員削減と7つの完成車工場を閉鎖するほか、福岡県に建設予定だったLFP電池工場の中止など、聖域なきリストラを進める。
ただ、全固体は電動化時代の〝ゲームチェンジャー〟との呼び声も高く、開発の凍結や中止は電動化時代の競争力低下に直結しかねないとみて、性能の改善や生産技術の開発を続ける。
全固体電池をめぐっては、トヨタ自動車が28年ごろ、ホンダも20年代後半の実用化を目指している。