ZEVには引き続き、力を入れる(26年発売のゼロシリーズ)
「ガソリン車やハイブリッド含め、(EVは)価値が同等以上になっていない」と三部社長

 ホンダがZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)戦略を見直した。カナダの専用工場など電気自動車(EV)投資を2年以上遅らせる間、ハイブリッド車(HV)と先進運転支援システム(ADAS)に力を入れる。ただ、比亜迪(BYD)などEV先行組との差が開きかねず、ADASでも価格破壊の兆しがすでにある。〝仲間づくり〟など、新たな一手も求められる。

 20日に発表した新計画では、2030年のEV比率を従来の3割から下方修正した。三部敏宏社長は「市場を読むのは難しいが、2割くらいまで減るのではないか」と語った。EVの苦戦について「一番の理由は売価。ガソリン車やHV含め(EVは)価値が同等以上になっていない」とも説明した。

 このため、関連投資を見直す。1年前に電動化とソフトウエア関連で30年度までに10兆円を投じる計画だったが、7兆円へと3割減らした。特にカナダのEV専用工場分(約1兆5千億円)が大きい。

 EVシフトの〝過渡期〟はHVとADASで乗り切る。30年度にHV販売を今の2倍超となる220万台に増やすため、27年からの4年間で13車種を投入。18年モデル比でコストも半減させ、収益性を高める。「パイロット」など大型車向けのHVシステムも30年までに投入する。

 燃費改善効果の高いストロングHVに加え、ADASを新たな差別化技術と位置付ける。ソフト関連投資は従来の2兆円を据え置いた。NOA(ナビゲーション・オン・オートパイロット)機能の次世代ADASを27年頃に日米の主力車種から展開し始める。運転者が周囲を注視しなくて済む「レベル3(条件付き自動運転)」の動作範囲を広げ「レベル2(高度な運転支援)」のまま高度化を目指す競合を突き放す考えだ。

 ただ、50年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)に向け、HVを販売し続ける考えはない。三部社長は「HVをずっとつくり続けるとカーボンニュートラルにならない」とし、HV販売のピークを30年と見立て、EVやFCVに力を入れる。40年にすべての新車をZEVにする〝旗〟も降ろさなかった。

 しかし、今回のシナリオも盤石ではなさそうだ。ホンダの年間販売は400万台弱で業界8位(23年)。世界首位の二輪車事業を抱えるとはいえ、電動化・知能化という新たな競争軸に「個社でやっていくのは厳しい」(三部社長)。しかし、これまで組んできたゼネラル・モーターズ(GM)とは量販EVの共同開発を中止し、日産自動車との経営統合もうまくいかなかった。

 投資の回収が極めて難しい電動化と知能化技術。ホンダにとっても巨額の開発や生産投資を分担し合い、車載OS(基本ソフト)などの費用対効果を最大化する協業先の存在が不可欠だ。

 EVやプラグインハイブリッド車(PHV)で急成長するBYDは2月、「天神之眼」と呼ぶADASを値上げなしでほぼ全車に搭載する方針を表明した。新旧入り交じった自動車業界の激しい競争の中、生き残りへの難路は続く。

(藤原 稔里)