スズキが「モビリティ」「エネルギー」で構成する新規事業の育成に取り組む。2030年度の売り上げ目標は約500億円。8兆円を計画する総売上高ベースでは1%にも満たないが、収益面では40年度に「既存事業に並び立つ柱」を目指すという。日印事業がけん引して足元の業績は好調だが、四輪事業の行く先には手ごわい中国勢も控える。鈴木俊宏社長は「今までの事業の延長線、同じやり方のアップデートだけでなく、非連続に挑戦し、成長していく」と決意を語る。
30年度までの経営計画では、売上高に当たる売上収益8兆円、営業利益で8千億円、営業利益率10.0%、ROE(自己資本利益率)13.0%を目指す。四輪車と二輪車、マリン事業でのシェア拡大などに加え、新事業領域での収益化も目標に掲げた。新事業領域と将来技術の開発に合わせて1千億円を投じる。
モビリティ領域では、電動車いすの技術を生かしたプラットフォームのほか、スタートアップ企業と取り組む「空飛ぶクルマ」や隊列自動走行といった新たなモビリティサービスでの事業化を狙う。次世代モビリティ関連ではスタートアップが先行する。スズキは既存の強みやパートナーとの連携を生かした製品・サービスで差別化し、事業化を目指す考えだ。
電動車いすの足回り技術を用いる「電動モビリティベースユニット」では、すでに複数の企業に試作車を提供している。電動車いすの部品を使用しているため信頼性が高く、屋外でも使用できる。農業用や無人搬送車(AGV)などでの展開を見込む。
スタートアップとの協業では、米グライドウェイズと軽自動車サイズの車両を使った専用レーンでの隊列自動走行技術を開発中。26年後半から米アトランタで実証を始める。豪アプライドEVとは「ジムニー」のラダーフレームをベースに、アプライドEVの車両プラットフォームや統合制御システムを搭載した電動台車を共同開発。約100台を用いて25年末まで実証を重ね、完成度を高める。スカイドライブ(福澤知浩CEO、愛知県豊田市)とは空飛ぶクルマの製造協力契約を結び、24年3月からスズキグループが持つ静岡県磐田市の工場で車両生産を始めた。
エネルギーでは独自路線を歩む。主力のインドで牛糞を活用したバイオガス事業を始めた。インドに約3億頭いるとされる牛の糞からバイオガスを生成し、CNG(圧縮天然ガス)車の燃料に用いるという壮大な構想だ。現地の乳牛大手企業や全国酪農開発機構などとともに、25年以降、グジャラート州内に5つのバイオガス生成プラントを設置する。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)とともに、インド農村部でエネルギーの〝地産地消〟を促し、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の一助とする狙いもある。
蓄電池では、出資先のエリーパワー(吉田博一会長兼CEO、東京都品川区)と共同開発する車載・定置兼用電池モジュールの活用を進めていく。日本でも系列販売網の一部で家庭用蓄電システムの取り扱いを試行しており、再生可能エネルギー関連機器の販売ノウハウを蓄積。日印の双方で蓄電事業の展開を視野に入れていく。
主力の四輪車事業では、日印の主力市場で手堅く事業基盤を築き、インドを輸出ハブと位置付ける戦略も軌道に乗りつつあるスズキ。しかし、少子化や原材料高に見舞われる日本の軽自動車事業は必ずしも先行きが明るいわけではなく、インドもこのまま一本調子で市場が拡大する保証はない。ヒョンデや現地のタタ自動車を交えた競争も激化している。こうした環境下で〝次の100年〟に向けた布石を今から打ち、持続的な企業成長につなげていく。
(藤原 稔里)
(2025/4/22修正)