リモコンで好きな場所に植物を移動できる。スズキの電動モビリティベースユニットを活用
セニアカーの自動運転仕様。走行スピードは時速1㌔㍍
猛暑日が増えており、自動車産業への影響も大きくなっている

 都市の緑化活動に、スズキの小型モビリティ技術の応用が始まっている。同社は東京大学、住友林業と連携し、樹木を載せて移動する〝動くみどり〟を開発した。電動車いすがベースの「電動モビリティベースユニット」を生かした「リモコングリーン」と、スズキが長年販売している「セニアカー」に自動運転技術を組み合わせた「ロボットグリーン」だ。これらは駅前広場や公園、駐車場などに移動し、植物によって太陽光を和らげる使い方を想定している。気候変動で猛暑となる日も目立つ中、熱中症などから人々を守れる技術になるか、注目される。

 動くみどりは、4月13日まで開催中の「第41回全国都市緑化かわさきフェア」でデモンストレーションが行われている。会場となっている富士見公園(川崎市川崎区)では、台車を用いた手動の「モバイルグリーン」を含めた3種類を見ることができる。どのモビリティにも、住友林業が製作した縦530㍉㍍×横530㍉㍍の植栽トレーを搭載。木を植えた状態で、イベントエリアを走行している。ロボットグリーンには桜の木を載せており、時節柄、多くの来場者の関心を集めていた。

 動くみどりの研究開発を担っている東大の横張真特任教授は、「屋外で緑のない場所に増やす方法として展開していきたい」と語る。気候変動対策として緑化の重要性が高まっているが、いったん植樹してしまうと容易には移動できない。モビリティ化することにより、緑を求める場所にタイムリーに届けることが可能になる。例えば、広場でイベント開催時のみ使用する、といった使い方も想定できる。また、電動車いすやセニアカーで培ってきたノウハウが生かされているため、「スズキの台車はトルクが強く、小回りが利く。荒れた路面でも対応できる」とも評価する。

 一連の取り組みでは、スズキの小型モビリティ開発にもメリットがある。同社ではセニアカーの自動運転の実現を目指している。ただ、歩道も走行できるセニアカーは、車道のみを走る自動車と異なる技術やノウハウが必要になる。例えば、「歩道でへこんでいる部分を認識することが難しい」(横浜研究所未来技術研究開発部新領域課の丸山泰弘課長)といった課題があるという。

 今回のイベントで走るロボットグリーンには、車両前方にLiDAR(ライダー、レーザースキャナー)を、前方と左右に3基のカメラを搭載。障害物を検知しながら、事前に登録したコースを時速1㌔㍍でランダムに自動走行する。歩道のような環境で走行データを収集できる絶好の機会でもあり、得られたデータを検証し、セニアカーの自動運転の技術開発に応用していく考えだ。

 スズキはモビリティベースユニットなどを生かしたサービスモビリティと、バイオガス事業などのエネルギー領域を合わせた新事業で、30年に売上高500億円を目指す方針を打ち出している。40年には既存事業と並ぶ収益力を実現する計画で、これにはさらに技術力を高めていく必要がある。こうした中でも、同社が掲げるものづくりの基本方針「小・少・軽・短・美」に沿った新たなモビリティを生み出していくことで、持続的な成長を目指す。

(藤原 稔里)