ワイヤレスリモコンの操作で車に乗り込む
スロープは荷室に格納されている
後席乗降時用のグリップ。運転席側にも乗り込みやすいように長さを伸ばした

軽自動車の福祉車両で約5割のシェアを持つダイハツ工業。健常者や要支援・要介護など乗員の身体状況に応じた装備を用意することで幅広いユーザーに対応し、シェアトップを維持している。その中でも最も売れているのが車いす移動車の「タントスローパー」だ。ダイハツ車の試乗会で、記者が車いすを用いて、タントスローパーへの乗降を体験した。

同社の福祉車両の2023年度の販売実績は前年度比20%減の4673台。24年3月時点での累計販売台数(販売終了車種も含む)は12万8686台に上る。このうち車いす移動車の累計販売台数は7万7839台。そのうち、タントスローパーは5万3873台を占める。車いすユーザーの安全性や使い勝手に加えて、介助・介護者の作業性も高めたことが特徴だ。

荷室に格納されているスローパーを活用し、車いすに乗った状態で乗車する。車いすのフレームにベルトのフックをかけ、ワイヤレスリモコンを用いて電動ウインチを動かし、スロープを昇っていく。電動ウインチによるベルトの巻き取りは低速で、乗車までに時間はかかるものの、スロープから落ちそうになったり、バランスを崩すこともなく、安心して乗車できた。乗車後は電動ウインチを固定。今回は車いすに乗った状態での車両の走行は体験していないが、頑丈に固定された印象で、走行時に車いすが動く心配もなさそうだ。

今回は、後席を格納した状態で乗車したため足元は少し狭く感じた。後席は取り外し可能なベンチシートのため、取り外せば足元はゆったりとした状態で乗ることができる。

タントの特徴であるピラーをドアと一体化してセンターピラーを排除した「ミラクルオープンドア」も、介助・介護者の作業性を高めている。センターピラーがあると、車いすユーザーのシートベルト装着などのサポートといった前方側からの作業がやりにくい面があるという。ピラーインドアにより広々とした空間を確保できるので、介助者の作業負担も軽減できる。

また、車いすではなく、助手席や後席の乗り降りのしやすさも重視している。乗降時の支えとなるグリップをシートなどに装着。後席用のグリップは助手席の後面に取り付け、運転席側の後席にも乗り込みやすいように長さを伸ばした。車いすだけでなく、高齢者などが乗りやすい工夫を施している。

タントスローパーを含め「タント」をベースとした福祉車両は、ダイハツの福祉車両の8割以上を占めるなど、介助・介護と日常使いとの両立を求めるユーザーが増えていることが伺える。身体状態にあわせた装備を展開することで、将来の親の介護などを見据えてタントを購入するケースが増えているという。

高齢化社会で福祉車両の活躍の場は今後も増える見通し。軽福祉車両トップメーカーとして、ダイハツは今後も安全性と使いやすさを追求した車両開発を進めていく方針だ。

(藤原 稔里)