障害の程度に合わせて、福祉車両も進化と多様化が進んでいる。介護施設や病院への送迎に欠かせないが、車いす利用者が運転を楽しんだり、よりケアしやすい車内空間をつくったりすることで、外出に対する心理的ハードルを下げる試みもなされている。2日から開かれている「第51回国際福祉機器展(H・C・R・2024)」には自動車メーカー4社が出展。誰もが自由な移動による喜びを得られるモビリティを提案していた。
トヨタ自動車は、全国に約2万人いるとされる「医療的ケア児」の移動を支援する専用バギーとスロープ車両の開発に取り組んでいる。こうした子どもは痰(たん)の吸引などの医療的ケアが必要だが、現状の車両では運転席から様子が分かりづらい。呼吸器が外れた際には、慌てて車を停める場所を探すケースが少なくないという。そこで、送迎者が様子をすぐに確認できるよう、運転席の近くに後ろ向きで乗り込めるバギーと固定方法を検討している。助手席と干渉するため、法規的な課題もあるが、関係者ら約500人から寄せられたニーズを踏まえて実用化を目指している。
車いすをワンタッチで固定できる車両も、2024年に入り各社が量産を始めた。自動車メーカーやバス、車いすメーカーらで構成される「車椅子簡易固定標準化コンソーシアム」がガイドラインを制定するなど、共通規格化も進む。トヨタやスズキなどはすでに、ガイドラインに沿った固定方法を量産車に取り入れている。車いすメーカーもこの規格に適合する後付け品のアタッチメント開発を進めているという。
障害を持っていても外出する楽しみを感じられる技術は、社会進出を後押しする上でも重要だ。トヨタは電動車いす「JUU」の開発を続けており、今回はアウトドアなどを想定した「プロト」と、日常使用を意識した「ライト」の2種類を「デザインスタディ」として参考出展した。電動ならではの走破性を、前者では悪路走破性に、後者は電車乗降時に生かすコンセプトだ。
また、下肢障害者でも運転を楽しめる技術の研究も進む。ステア・バイ・ワイヤ技術を用いたトヨタの「ネオステア」は、アクセルやブレーキレバーの配置を工夫したほか、ウインカーやスイッチ類をステアリング上に配置するなど改良した。また、マツダは「アクセルリング」と「レバーブレーキ」で運転できる「セルフ・エンパワーメント・ドライビング・ビークル(SeDV)」の開発を続けており、新たにSUV「CX―30」に搭載して発売する予定だ。
(中村 俊甫)
(2024/10/8修正)