24年4月の新事業体制発表会

 ダイハツ工業の新体制が発足して1年が経過した。認証不正からの信頼回復という重責を担うこととなった井上雅宏社長は就任時、「今はいったん立ち止まり、課題を修正して再び走り出したい」と社員に向けて語った。2024年は国内生産の停止や法規制対応など、生産・販売ともに打撃を受けて停滞した1年だったが、再発防止策を最優先で取り組み、信頼回復にまい進した。今後も組織・風土改革に継続して取り組み、認証不正からの再出発を切る。

 24年3月1日付で、社長にトヨタ自動車で中南米本部長を務めた井上氏、副社長にはトヨタ自動車九州副社長だった桑田正規氏が就任。この2人に加え、ダイハツプロパーの星加宏昌副社長の3人で新体制をスタートした。井上社長は「『働いて安心』『役割で仕事』『現場主義』を合言葉に『ワンチーム』で働く」とし、再発防止策では「風土改革」「経営改革」「モノづくり・コトづくり改革」を掲げ、不正を起こし得ない仕組みの構築、風通しの良い風土などを目指して取り組んだ。

 今回の不正では、トヨタ自動車の小型車を担うダイハツが開発や認証などのリソースが不足する中で、身の丈に合わない開発を推進し、認証工程にシワ寄せが発生したことが要因とされている。こうした状況は「上にモノが言えない」という社内の雰囲気も、不正を加速させる遠因となった。

 不正内容を踏まえ、再発防止策では102項目を設定。不正が発生した認証関連では、「くるま開発本部」内にあった「法規認証室」を、新設した「品質統括本部」内に移管し、開発と認証を分離。さらに法規認証室の試験グループの人員は23年1月比で7倍に増員、安全性能評価の人員は同1・5倍にし、十分なリソースを確保した。

 また、開発スケジュールは従来比1.4倍となる標準日程とし、従来の短期スケジュールによる開発に比べて余裕を持たせた。開発や認証で遅れが生じそうな場合は、各段階での責任者が周囲に遅れや課題を伝え、後工程にしわ寄せが発生しない仕組みを整えた。ダイハツの強みである短期開発も「あきらめることなく進める」(星加副社長)考えだが、「まずはけじめをつけ、正しい開発をできる体制にすることが最優先」(同)とし、不正を起こし得ない体制を構築した。

 風通しの良い職場づくりも進めた。今回の不正の要因ともなった風土について、桑田副社長は「声を上げても(報告しなければいけない)しかるべき人がたくさんいて、上に声を上げることに疲れてしまっていた」と振り返った。不正を受け、レイヤー(層)を簡素化。24年5月に経営体制を変更。「統括部長」や「副統括部長」を廃止。部組織を従来の40から55に、室組織を181から224に増やした。管理職が部下の状況や困りごとを把握できる体制とし、部門内でのコミュニケーションの改善を図る。また、再発防止策では他部門との連携強化に向け、開発に関係する部署でのワーキングチームを結成し、現場での仕事の進め方や課題を洗い出して改善策を検討する。

 新体制で進めた再発防止策の徹底により、井上社長は「再発防止の仕組みとして、基礎的な部分はつくり上げることができた」と話す。約1年で、102項目すべての取り組みが着手・着手済みとなったことから、今年1月24日には国土交通省への四半期ごとの進捗報告を終えることができた。

 井上社長は「(再発防止策を)守りつつ、『再スタートを切るぞ』と社内に向けて発信した」と語る。また、星加副社長も「いったん102項目は終了したが、今後もさまざまな課題が出てくると思う。その都度、コミュニケーションをとって改善を続けていく」とし、今後も組織・風土改革は継続しながら、信頼回復の取り組みや次の成長に向けた基盤づくりを整える考えだ。

(藤原 稔里)