トヨタ自動車の車両生産が回復基調にある。国内は認証不正による稼働停止からの挽回が進み、海外では好調なハイブリッド車(HV)販売が追い風で、グローバルで年間1千万台ペースに戻りつつある。ただ、米中対立の先鋭化やトランプ米大統領の振る舞い、中国市場の先行きなど不透明感も増す。こうしたリスクにどう対処するか、トヨタの戦略が注目される。
トヨタは、特定の地域に偏らず、バランスの取れた販売構成に強みを持つ。それでも2024年の販売は米国が23.0%、中国が17.5%を占め、両国を合わせた販売比率は4割を超えた。業績に与える米中市場の影響度が増している。
特にメキシコとカナダへの関税発動に警戒感が高まる米国市場は視界不良だ。最高財務責任者(CFO)の宮崎洋一副社長は「間違った判断をしないように、リードタイムを短縮し、できるだけ引きつけて判断したい」と語った。
トヨタの24年米国販売は約233万台。約半数を米国内で生産、2割をメキシコとカナダから輸入し、残りの3割は主に日本から輸入している。メキシコやカナダ生産車の影響は避けられないが、米国を軸とした北米全体のサプライチェーン(供給網)は複雑で見直しは容易ではない。デンソーの松井靖副社長は「サプライチェーン全体で吸収するだけでなく、価格転嫁する相談をしていきたい」と話すが、最終的な製品への価格転嫁も含めて関税リスクにどう向き合うか、難しい舵取りを迫られる。
他方でトランプ政権は環境規制の修正を打ち出しており、HV販売を伸ばすトヨタには追い風となりそうだ。もともと、大統領戦前から向こう3年で米国生産を増やしていく方針をサプライヤーに示していた。とはいえ高関税が発動された場合、インフレの再燃に伴う需要減でこうした目算が狂う可能性もある。
中国市場については「外資系が苦戦を強いられる中でトヨタは力戦(りきせん)している」(デンソーの松井副社長)との声もあるが、怒濤(どとう)の新車ラッシュや激しい値引き競争など〝嵐〟が収まる気配はない。
トヨタはこうした状況に対処しようと、開発や生産体制を見直している。トヨタ初の単独運営となる電気自動車(EV)工場を上海に新設する計画で、現地サプライヤーからの調達を増やしてコスト競争力を高めたEVを27年以降に投入する。それまでは〝嵐〟に耐える必要がある。
認証不正や品質問題で断続的に稼働停止が続いていた国内生産は、挽回に向けて高い水準を維持する。25年は開発体制や技能、雇用の維持に必要な生産量の目安としてトヨタが掲げる「300万台」を3年連続で超え、6年ぶりとなる340万台水準まで増えそう。このうち約150万台を国内販売、残りを輸出に振り向ける。それだけに、海外市場の動向が国内生産を左右しそうだ。