アイシンと三菱電機が、発表済みの次世代電動化部品に関する合弁会社の設立を見送り、業務提携契約に方針転換した。背景には、eアクスルのニーズの多様化に対して、事業のスピード感という点で合弁設立より業務提携の方が得策だと判断したことがある。さらに、デンソーとアイシン、トヨタ自動車が共同出資する電動パワートレイン会社「ブルーイーネクサス」の存在など、トヨタグループ内の声も影響したとみられる。業界の垣根や系列を超えた新会社の取り組みは後景に退いたが、業務提携という選択で多くの機能を一体化させた「Xイン1」をいち早く投入し、変化の激しい事業環境の中で競争力を保てるのかが注目される。
両社の協業では、eアクスルの共同開発を打ち出している。合弁設立から業務提携への方針転換について、10月31日夜に会見を開いたアイシンの伊藤慎太郎副社長や、三菱電機モビリティの加賀邦彦社長らは、協力関係の後退との見方について口を揃えて否定した。
合弁を見送った理由について伊藤氏は「会社設立だと具体的に人を割り当て、会社を切り出すといった手続きもあり、結構時間がかかる。早期に(製品を)市場に投入する上で、両社の技術を生かし、目の前のニーズにまず対応したい」と説明。加賀氏も「合弁は準備に時間がかかる。それぞれの技術を見せ合うなど議論し、今お客さまがおられるのなら、そのビジネスをしっかりつかもうと決めた。急拡大する電動化ニーズを踏まえ、保有技術を結集させる。電動化技術を拡大させる基本方針に全く変わりはない」と呼応する。
また、「市場は昨年までEV(電気自動車)一辺倒だったが、変調が言われるようになり、カーボンニュートラルを目指すとしても、プラグインハイブリッド(のニーズ)など、いろいろ出ている」(伊藤氏)と外部環境の変化も要因に挙げた。
顧客から関心の高い次世代eアクスルを、バリエーションを揃えて早期に提供するために、業務提携に切り替えたという両社。合弁だと単体としての事業の採算性がすぐ求められるが、提携なら中長期に取り組める可能性もある。
とはいえ、将来的に合弁を検討する姿勢を保持するのであれば、合意を解消する必要はない。これについて加賀氏は「電動化市場が不透明な中、中長期を狙ってレベルの高い技術融合を目指すべきか、(それとも)まずは今あるニーズを考えるか、を考えた」と説明。eアクスル事業に関する将来展望の難しさを挙げるとともに、悩ましい選択だったことも明かした。
また、アイシン側では、グループで取り組んでいるブルーイーネクサスとの兼ね合いなどから、異論や懸念が出た可能性もあるようだ。
伊藤氏は「我々が今持っている販路の中で、ブルーイーネクサスが一番良かろうと考え、パートナーにも説明してきた。ただ、eアクスルの広がり、戦略についてアイシンがどう考えていくかなど、グループでコミュニケーションを取っていたというのはある」と、グループ内での意見が影響した可能性を示唆した。ただ、「製品を早く出すためということで動いており、(グループ内の摩擦など)心配いただく点はあまりない」とも説明した。
業務提携に切り替えた両社は、継続して協議を行い2020年代に次世代eアクスルの開発を完了させる想定だ。早ければ27年にも発表することが見込まれる。ただ、今後の事業規模は未定とし、小さく産んで大きく育てるスモールスタートを目指す形だ。
今回の方針転換は、自動車部品で再成長を狙う三菱電機とっては、出鼻をくじかれた格好ともいえる。自前主義の脱却を目指し「今後もパートナーの拡大を図る」という中で、ADAS(先進安全運転支援システム)なども含め、スピード感のある協業を推し進められるかどうかも問われている。
(編集委員・山本 晃一、福井 友則)