ニデックが創業者の肝いりで始めた車載部品事業の軌道修正に乗り出した。電気自動車(EV)市場が急拡大するとみて「eアクスル」に重点投資してきたが、過当競争やEV販売の失速など誤算が続き、逆に経営の重荷になりかけている。今春、発足した新しい経営陣はeアクスル事業を縮小する一方、モーター以外の車載部品事業のてこ入れにグループ力を結集させる。車載事業の再構築は、ニデックが永守体制から脱却できるかどうかの試金石となる。
「これまでのニデックでは考えてこなかったことも含めて新体制でやっていく」―今年4月に永守重信氏(グローバルグループ代表)の後継として社長に就任した岸田光哉氏は、持続的な成長に向けてグループのシナジーを追求する方針を示した。最初の取り組みとなるのが車載部品事業の再構築だ。
同社は、祖業であるモーター技術を生かし、高い成長が見込める新事業としてeアクスルに着目。「2025年がEV普及の分水嶺になる」とみる永守代表の大号令のもと、eアクスルの開発・生産体制を拡充してきた。25年に400万基、30年度には1千万基を供給し、世界シェア40%を目指していた。
しかし、世界最大のEV市場である中国でEVの値下げ競争が激化し、これが部品にまで波及してeアクスル事業の収益が参入当初から悪化し始める。昨年後半からは欧米市場でEV販売が失速して追い打ちをかけられた。「eアクスル事業が全体の成長をけん引する」という目算は完全に狂った。
eアクスル事業の立て直しに向け、ニデックは数量を追わない戦略に転換した。eアクスルはステランティス、中国の広州汽車と設立した合弁2事業に絞る。ニデック単独としてはステーター(固定子)やローター(回転子)などのモーター構成部品の供給に特化する。eアクスルの付加価値自体はなお高いが、自動車メーカーの内製意識が強いことや、競合他社との激しい受注競争で採算確保が難しいためだ。
eアクスルによる成長戦略の見直しを余儀なくされた新経営陣は、グループシナジーの追求に軸足を移す。ニデックはこれまで、永守代表が主導してM&A(企業の合併・買収)を重ね、傘下に収めた企業を再建することで事業規模を拡大してきた。eアクスルでも、部品の内製化に向けて工作機械メーカーを買収するなどしてきたが、70社を超える買収企業の連携などはあまり進んでいなかった。
今回、最初の取り組みとなるのがインバーターなどを手がけるニデックエレシス(旧ホンダエレシス)と、電子制御装置(ECU)技術を持つニデックモビリティ(旧オムロンオートモーティブエレクトロニクス)の統合だ。
自動運転などの先進技術に経営資源を集中したい自動車メーカーなどから「制御系ECUはサプライヤーに任せたいので、システムで供給してほしいというニーズが増えている」(岸田社長)という。両社を統合し、部品ごとの供給からソリューション事業へとシフトしていく。
電動パワーステアリング用モーターや電動ウォーターポンプといった既存の車載部品事業でも、収益が悪化している北米、欧州事業のてこ入れを急ぐ。現地でのオペレーションに強い家電産業事業本部と既存の車載部品事業を統合した。共同購買や物流の一本化で収益を回復させる。
ニデックは長年、永守代表の後継者問題でつまずいてきた。後継者として一度は社長に就いた日産自動車出身の関潤氏、吉本浩之氏はeアクスルを含む車載部品事業の拡大に失敗し、同社を去った。こうした経緯を見てきた岸田社長は、不採算事業に早めに見切りをつけ、グループ力を生かしながら車載部品事業を再成長させるようと先手を打っているようにも見える。
岸田経営体制が軌道に乗るかどうかはまず、車載部品事業でグループ力を生かせるかにかかっている。
(編集委員・野元 政宏)





