6月に発売したセダンのシール
東福寺社長

 中国・比亜迪(BYD)傘下で日本の乗用車事業を手掛けるBYDオートジャパン(横浜市神奈川区)の東福寺厚樹社長は、国内向けの車両ラインアップ拡大のため「商品企画部」を設置したことを明らかにした。国内で人気があるワゴンタイプやプラグインハイブリッド車(PHV)などの新モデルを視野に入れている。同社は現在、3車種の電気自動車(EV)をそろえており、一定の実績を挙げている。ただ、国内市場でEVの普及が遅れていることから、新部署を通じて中国の本社と協議し、日本のユーザーに合ったモデルを導入し、BYD車のシェア拡大につなげる考えだ

 これまで同社の戦略を担う主な部署は、商品の宣伝戦略などを行う「マーケティング部」、国土交通省との認証問題などを扱う「技術コンプライアンス部」、本国と連携して生産計画などをみる「プロジェクト管理部」、販売店網を担当する「ネットワーク管理部」などがあった。これらに加え、8月に商品企画部を新設した。責任者には外部の人材を登用した。

 新たな組織について、日刊自動車新聞の取材に応じた東福寺社長は「今後3~5年のミドルレンジで、日本により適した商品を本社のラインナップから持ってきたい」とした上で、「顧客、市場がこうだから、日本にはこういう車がほしいと(中国本社に)フィードバックできる態勢をつくりたかった」との理由を話した。また、国内において徐々にできつつある販売店網からの要望を、反映していく狙いもあるという。

 国内販売車種のバリエーション拡大に向け、候補としているものの一つがワゴンタイプのモデルだ。東福寺社長は「SUVに次いでマーケットが大きい。日本のファミリーカーのほとんどはワゴンタイプで、そこの需要層向けには必要」(東福寺社長)とみている。実際、BYDの有力ディーラーからも、要望が挙がっている。

 もう一つの柱は、PHVだ。国内発売している車種はEVしかないが、「世界的にみるとBYD車はPHVの方が多くなっている」(同)と明かす。「EVもPHVも両方あるモデルが増えており、日本の顧客に支持されそうということであれば、導入はあり得る」(同)としている。

 ただ、PHVの国内発売については、EVよりもハードルが高いとみられる。現在、オープンしている販売店のサービス工場は、EV専用になっているからだ。このため、内燃機関があるPHVを投入する場合は、各店の工場の機能を拡充するなどの対応が必要で、準備に時間がかかる。EVのワゴンであれば、現状の販売体制でも十分に受け入れ可能とみられるが、「具体的にはまだ決まっていない」(同)としている。

 同社は2023年に日本の乗用車市場に参入。これまでEVの「アット3」「ドルフィン」「シール」を発売。6月末に発売したセダンのシールは、10月10日時点で530台の受注実績となっており、24年度内に当初目標の1千台分の顧客を確定したい考えだ。今後は年に1車種のペースで、新型車を導入していく計画。現在の3車種の次のモデルについては、25年前半に投入する予定という。

 BYDの乗用車の24年1~9月期の販売台数は1742台。東福寺社長は通年で2千台程度にはなるとの見方を示した。一方、25年末までに販売店網を全国で100カ所(現在60カ所弱)をつくる目標を掲げているが、東福寺社長は「けっこう難しいというのが正直なところ」と述べた。

(編集委員・小山田 研慈)