豊田自動織機を源流とし、自動車事業の拡大に伴って次々と生まれた関連企業で構成するトヨタグループ。電炉事業から各種の自動車部品、商社や不動産事業まで、多種多様な企業がそろう。今やグループの売上高は80兆円に迫り、約80万人が世界で働く。本丸のトヨタ自動車は前人未到の世界販売1千万台を達成したが、足元で相次ぎ発覚した不正の連鎖がそんなグループに冷や水を浴びせた。トヨタを待ち受けるのはさらなる成長か、それとも…。トヨタグループが直面する課題と展望を読み解く。
グループ創始者の豊田佐吉氏が20世紀前半に建造した自動織布工場の建屋を活用したトヨタ産業技術記念館。1月末、トヨタグループの原点ともいえる施設は物々しい雰囲気に包まれた。駐車場には黒塗りの「レクサスLS」や「アルファード」が数十台並び、トヨタグループ17社の首脳らが勢ぞろいした。この日、豊田章男会長がグループビジョンを発表した。
豊田会長は「トヨタグループを管轄する会社はない」と語り、自らがグループ責任者としてリード役を担うことを強調した。トヨタグループは、自動車部品などを手掛ける会社がトヨタから分離する形で拡大してきた。このため、トヨタは各社の株式を2割以上持ち、グループ各社も株式を持ち合う。こうした資本のつながりだけでなく、豊田会長がグループの先頭に立ち、ビジョンという〝横串し〟を通すことで、改革を進めていく姿勢を打ち出した。
CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)の進展に伴い、トヨタは「ホーム&アウェイ戦略」でグループが持つ事業の全体最適化を進めてきた。トヨタ自身も、パワーコントロールユニットを生産する広瀬工場(愛知県豊田市)をデンソーに移したり、ディーゼルエンジン事業を豊田自動織機に任せたりしてきた。ただ、そのディーゼルエンジン事業や、ダイハツ工業に任せていた新興国向け車両の開発で認証不正が相次ぎ発覚。豊田会長は「私が社長でいた14年間は、赤字に始まりリーマンショック、リコール(回収・無償修理)問題など危機の連続で、トヨタを立ち上がらせるだけで精いっぱいだった。(グループ会社を)見ていなかったというより、見られなかったのが正直なところだ」と明かし、再生への決意を語った。株式の持ち合いも見直しが始まった。グループの長男格であるデンソーは2024年3月期中に11銘柄、アイシンも8銘柄、いずれも計1千億円超を売却した。松井靖副社長は政策保有株について「2~3年で限りなくゼロに近づく」と語る。ジェイテクトや豊田合成も約20銘柄を売却した。トヨタは、前年度に約12万台に過ぎなかったEV販売を26年に100万台以上へと増やす考えを持つ。ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)化も同時に進めており、グループ各社は資本効率を高めつつ、EVシフトに必要な資金をねん出する狙いがある。
トヨタは引き続きグループの株式を持つが、出資比率は持ち分法の下限である20%まで下げていく。KDDIなどグループ外企業の政策保有株式も放出し、成長資金に回す方針だ。資本効率化を含め、グループ各社に経営の自立を促す一方、グループビジョンという「求心力」で総合力をさらに高めていく考えだ。
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英仏など一部で〝エンジン禁止〟の政治的なメッセージがセンセーショナルに報じられてから10年弱。トヨタは機関投資家やメディア、環境活動家による、〝魔女狩り〟にも動じず、国・地域に応じて多様なパワートレインを用意する「マルチパスウェイ(全方位)戦略」を貫いた。競合他社の一部がEVに〝全振り〟する中で、全方位戦略を維持できるのは体力があるトヨタならではだ。
足元ではグループの総合力で20年以上、商品力を磨き続けたストロングハイブリッド車(HV)が世界的な燃料高を背景に売れ始め、稼ぐ力も最大限に高まっている。
HVの快走は、トヨタのパワートレイン戦略が正しかったことを証明した。ただ、愛知にあるサプライヤーの幹部は「これまでは風土として『トヨタさんの言うことをちゃんと聞いていれば大丈夫』みたいなのがあるが、そういう時代ではなくなってきている」とも話す。
佐吉氏の考えを成文化した「豊田綱領」には「研究と創造に心を致し、常に時流に先んずべし」という一文がある。変化のスピードは想定より遅いが、EVやSDVで新興メーカーにトヨタが出遅れているのは事実だ。巨艦トヨタがさらなる成長を遂げるには、盤石なグループ基盤に安住することなく、グループの各企業が競争力を高め、「時流に先んずる」必要がある。