マツダを取り巻く事業環境がにわかに曇り始めた。日本や中国、タイの販売低迷に加え、収益を支える米国でインセンティブ(販売奨励金)が上昇し、景気後退懸念も出てきた。収益貢献度の高い「ラージ商品群」の拡販で乗り切ることができるか。
「業績は計画とほぼ一致している。増収増益は良い結果と思っている」。7日の2024年4~6月期決算会見。売上高は過去最高、すべての利益項目でも増益を確保した好業績を説明するジェフリー・ガイトン代表取締役専務執行役員兼CFO(最高財務責任者)の表情は淡々としていた。
期中の世界販売は30万9千台。前年同期とほぼ同水準を保ったが、市場によって濃淡がある。日本は前年同期比3割減(2万9千台)、中国は同1割減(1万8千台)、タイは半減(3千台)と、日本とアジアは軒並み大幅マイナスに終わった。「CX―50」「CX―90」などの新型車が好調だった北米が同14%増の14万6千台を売ってカバーした。
しかし、その米国に変調の兆しがうかがえる。大幅増益となった4~6月期の営業利益の変動要因をみると「競争環境の変化」(ガイトンCFO)で、米国を中心とするインセンティブ(販売奨励金)が増加し、351億円の減益要因となったのだ。今四半期は円安による為替差益439億円でカバーしたが、為替変動を除く事業ベースでは実質赤字だった。
円安に救われた格好だが、足元を急激な為替変動が見舞う。マツダは通期の業績見通しや、グローバルでの連結出荷台数見通しを前回公表値のまま据え置いた。米国では今後、インセンティブが上昇することを想定、前回予想より540億円の費用増を見込む。この分は、想定為替レートを対ドルで7円円安の150円に修正し、為替差益で吸収する想定だ。同社は「4~6月期が1㌦=156円と想定より円安だったことから修正した」と説明するが、市場はすでに1㌦=145円前後にまで円高に振れている。ガイトンCFOは「(株価や為替水準が大きく変動しても)過剰に反応することなく慎重に見極めて対応する」と述べた。懸念材料はそれだけではない。国内販売は、昨年暮れに「CX―8」の生産を終了したことや「CX―60」の新型車効果が一巡したことで大きく落ち込んだ。ラージ商品群の新型車「CX―80」を投入してテコ入れする考えだが、通期計画の18万台達成は早くも黄色信号が灯る。
生産拠点を持つ中国とタイ事業のテコ入れも課題だ。電気自動車(EV)などの販売が急拡大している中国でマツダの合弁事業は低迷しており、23年には第一汽車グループとの事業を打ち切った。今は重慶長安汽車との合弁事業だけとなったが、こちらも激しい値引き競争の中で苦戦している。中国向けの新型EV「EZ―6」を年内に投入するが、攻勢を強める新興EVメーカーに対抗できるのか不透明だ。値引き競争にでも巻き込まれれば目算が大きく狂いかねない。
タイではローン審査の厳格化により全需が冷え込んでいる。ガイトンCFOは「サービスと品質、信頼性に重点を置いてきた。(台当たり利益率が上昇して)明るい光が見え始めている」と楽観視するが、同業他社は「来年度に入ってから回復の兆しが出てくることを期待している」(いすゞ自動車の山口真宏グループCFO)と厳し目にみている。スバルとスズキは現地生産からの撤退を決めた。
通期業績予想を据え置いたマツダが望みをかけるのが北米でのラージ商品群だ。昨年のCX―90に続いてCX―80、CX―70を投入し、販売台数、収益とも伸ばすシナリオを描く。ただ、肝心の米国市場は景気後退やインセンティブ上昇などのリスクが高まり、為替動向も不透明だ。
ブランド戦略の推進で台当たり利益率を高めながら成長してきたマツダ。これまで磨いてきたブランド価値で全需の冷え込みや値引き競争を跳ね返せるか。夏以降、厳しい試練が待ち受ける。
(編集委員・野元 政宏)