損害保険大手4社の顧客契約情報が損保代理店がらみで競合他社間に漏えいし、事実上共有・黙認されていたことが判明した。関与した代理店は延べ833。ある損保によると、少なくとも2018年7月から行われていた。ただ、何が狙いで、なぜ損保側が黙認してきたのか、謎が多い。鈴木俊一財務相兼金融担当相は「これまでも不祥事があったが、それに続いて法令上問題があることが発生したのは遺憾なこと」と述べた。金融庁として、規模や原因を調べているという。
4社は東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険。5月31日に開いた閣議後会見で鈴木金融担当相は「保険会社および代理店に対しては個人情報保護法、保険業法で個人情報の漏洩などの防止のために必要かつ適切な措置をとることが義務付けられている」と強調した。
この問題は5月23日に、4社が発表した。複数の宛先に送信できる「CC(カーボンコピー)」機能を使用して、代理店の管理部から各拠点に発信するメールで、ほかの損保の担当者のアドレスが含まれたものがあった。4社もそういうメールを受信していたことを認めた。
東京海上日動は自社から代理店にメールする際、「CC」にほかの損保会社の担当者を入れてメールしたケースがあったという。ほかの3社は、このようなメール送信をしたかどうか、「現在調査中」としている。今回の件は、東京海上日動の社内で4月16日に指摘があり発覚した。その後、3社にも調査が広がったようだ。
代理店側は、なぜこのようなことをしたのか。複数の損保会社の商品を取り扱う代理店では本来、それぞれの社の契約ごとにメールすべきだが、「人手不足で忙しく4社の契約をまとめて送った」との見方がある。
また、あえて他社にも送ることで、「損保各社を競争させようとしたのでは」とみる関係者もいる。メールでその拠点の勢力図が分かる。例えば、ディーラーなど複数の拠点を持つ代理店では、店舗ごとに取り扱う損保を分ける「テリトリー制」を採るケースも少なくない。自社商品の取扱店舗を増やしたい損保に、代理店側が「そうしてほしいなら『よりいい条件、いい見積もりを持ってきて』ということだったのでは」と、指摘する声もある。実際、旧ビッグモーターも、各社を過度に競わせていたことが問題になった。
さらに大きな謎は契約情報の漏えいを認識していながら、損保各社が事実上黙認していたことだ。「問題があると全く気付いていなかった」「そのような慣習だったので、疑問に思わなかったのではないか」「損保大手はともに代理店を支えていこうという気持ちがあり、他社も含めて満期がきたら忘れないようにサポートしようという気持ちだったのでは」「代理店の力が強く、指摘できなかったのでは」などと、関係者の中でもさまざまな見方が飛び交っている。
4社は、法人向け共同保険の価格調整(カルテル)問題で行政処分を受けた。さらに損保ジャパンは旧ビッグモーター問題で、2つ目の処分を受けた。5月には「団体扱(あつかい)契約」の自動車保険で、4社の不適切な調整があった。
(編集委員・小山田 研慈)