リョービは最新のアルミダイカスト技術を披露した

 電気自動車(EV)の車体成形技術として脚光を浴びるアルミ材の大型鋳造技術。コストや補修性など課題もあるが、100点もの部品を一体成形する構想を持つ完成車メーカーもある。素材となるアルミの台頭を横目に、鉄鋼メーカーらも次世代技術で対抗する。

■注目集まるギガキャスト

 「想定より反響が多く、驚いている。それだけギガキャストに対する期待が大きいのでは」。「人とくるまのテクノロジー展2024横浜(人テク)」に出展したリョービの担当者はこう話す。同社は人テクで、25年から稼働開始予定の型締め力6千㌧級のダイカストマシンを用いたギガキャスト事業を提案した。100点もの部品を2~3部品に一体成形する構想を持つ。

 こうした大型モジュール(複合部品)になると、必ずしも1本の生産ラインでつくる必要はない。並行生産すれば工場のレイアウトが大きく変わり、台当たりの生産時間(タクトタイム)も縮まる。「コストと生産管理の点で大きなメリットをもたらす」とダイカスト企画開発本部研究開発部の新田真部長は話す。

 ギガキャストはEV専業の米テスラが実用化で先行した。車載電池ケースでの採用を想定していたトヨタ自動車や日産自動車も20年代後半からEV車体での採用を計画する。サプライチェーン(供給網)のしがらみがない中国メーカーも導入に意欲的だ。

 リョービでは「量産の方向性は(客も)まだ模索中の段階」(新田部長)とし、まずは試作サービスから展開する方針だ。金型の設計や解析技術を用いて最適な生産方法を供給先と二人三脚で探る。

 単に型締め力を大きくするだけではコストが膨らむ。成形精度の確保も課題だ。まだ発展途上の技術だが、EVの構造部品でアルミダイカストの存在感が増す。リョービは、ダイカストを用いた電池ケースやドア周り部品を提案したほか、独ヘンケルはダイカスト用の離型剤を出展した。シリコン材を使わないことが特徴で、成形後の洗浄工程を省くことができる。「精密なダイカスト向けの製品だが、EV向けで採用したいと引き合いが増している」(担当者)と言う。

■鉄でも一体化進む

 高まるアルミの存在感に、日本製鉄の今井正社長は「今までのやり方では生き残っていけない」と危機感を露わにする。人テクでは、ホットスタンプ(熱間プレス)を使った一体成形技術を披露した。19部品を2つの部品にしたリアアンダーモジュールや、9部品を1つの部品にまとめたドアリングなど、ギガキャストを強く意識した提案が目立った。

 フタバ産業も、異なる板厚をレーザー溶接した「テーラードブランク」を用いた車体後方下部の「リアアンダー」を展示した。プレス部品大手の同社は、30年度に世界販売の約4割がEVになった場合でも、ギガキャストによる売り上げ減少効果が数%程度にとどまると試算する。久恒季之執行役員は「プレス部品には生産性の高さや、溶接位置を最適化することによる補修性の高さなどの長所がある」と強調する。

 また、9つのプレス部品を一体化したドアリングの量産実績を持つスペインのゲスタンプの首脳は「事故などの際、ギガキャストは損傷部位の部品を個々に取り換えることができない」と指摘する。

 アルミも鉄も、部品の点数や加工工程を減らす方向性は一致している。EVでの「陣地取り合戦」の激化も予想されるが、リョービの新田部長は「ピラーなど(より強靭性が求められる部位)ではアルミでは難しいケースもある。素材や用途に応じて使い分けることが必要ではないか」と指摘する。異素材成形も含め、どこまで適材適所の提案ができるかが、EV時代の勝敗をわける。

 この連載では、各社の人テクでの提案を元に、次世代技術のトレンドを探っていく。