試乗したアリアは「B9 e-4ORCEリミテッド」。1充電あたり560km(WLTCモード)走行できるという
アリアの車内はフラットな床面がEVであることを実感させる
サクラは「G」グレードに試乗した
サクラもデジタルディスプレーを採用。高級感の演出に一役買っている
床面に大量のバッテリーセルを搭載するアリア(カットモデル)。試乗車の車体重量は2230kgに達する
魅力も課題もある現在のEV。価値の判断には中長期で見る必要がある

街中で電気自動車(EV)を見る機会が増えている。静粛性や加速力、そして走行中に二酸化炭素(CO2)を排出しないことがEVの最大の特徴だ。一方、自ら身銭を切って買う上では、充電網の不安や電池残量の管理といったEV特有の「カルチャー」に慣れる必要がある。国内のEV市場をけん引する日産自動車の「アリア」と「サクラ」に乗り、その面白さと難しさを体感した。

運転のしやすさとキビキビとした走り

筆者がEVを運転するのはこれで2回目。まずは旗艦EV「アリア」に乗り込む。ドアを開くと足元の広さが目に止まる。排気管やプロペラシャフトがなく、車体中央部もフラットだ。インパネにはデジタルメーターとナビゲーションを映し出す2つの大型ディスプレーが並び、モダンな印象を与える。

アリアは全長約4.6m、全幅約1.9mと大柄だが、車線変更や右左折時も運転のしやすさを感じた。床下に電池を積むEVは天井の低さが指摘されるが、運転時は目線の高さにつながっているのかもしれない。

軽EV「サクラ」もボディタイプは違えど、足元の広さやデジタルディスプレーの先進性は共通している。試乗コースには坂道もあったが、EVなのでエンジンがうねりをあげることもなく静かに軽快に登っていった。一方、EVならではの高トルクにより、雨で濡れた路面での左折時、道路のマンホールで片輪が空転する場面もあった。四輪駆動システム「e-4ORCE」を搭載するアリアの安定感に気づかされた。

混雑する都内で気になる加速のもたつき感やふらつきは皆無で、運転してとても魅力的だと感じたこの2台。だが車から降りて冷静になり、EVユーザーになるには課題も多いと考えさせられた。

充電時間の可視化に期待

2023年度の国内乗用車販売台数に占めるEVの割合は2.1%ほど。シェア拡大への大きな懸念点の一つが充電網の少なさだ。特に長距離移動では充電スタンドをあらかじめ調べ、ルートを組み立てるのが望ましいとされる。その充電スタンドでも「先客」がいれば、その場で待つか移動するかの判断を迫られる。

充電スタンド前で待機する場合、厄介なのがすでに充電中の車両がいつ発進するか、目途がつかないことだ。数分で「満タン」が可能なエンジン車と大きく異なり、EVは急速充電で最大30分ほど要する。「前の車の充電がどれくらいで終わるのか、一目で分かれば良いけれど」―。ユーザー目線で感じた意見に、日産の担当者が「確かにそうだ」と相槌を打った。

次世代車ではインターネットによる無線通信(オーバー・ジ・エア、OTA)で車載ソフトを更新し、機能を進化させる「ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)」を意識した開発が進む。アリアも「コントロールユニットの大半がOTA機能を持つ」(中畔邦雄副社長)という。驚くような新機能だけでなく、充電時間の表示といったユーザー目線の「痒い所に手が届く」機能も、スマートフォンのようにソフトの更新で実現してほしいと期待する。ただ、EVは電池残量を30~80%の範囲に維持することが推奨されており、充電時間もユーザー次第でまちまち。他のEVユーザーとコミュニケーションを図るのは簡単ではないかもしれない。

補助金頼りのモビリティの価値

もう一つの懸念が価格差だ。EVはバッテリーが高額なため、試乗したアリアはオプション装備を含めて800万円弱。サクラでも300万円を超える。今のところEVには手厚い購入補助金があり、実際はもう少し安価に購入できるが、自治体によって金額は異なる。年度ごとに定めた予算がなくなれば打ち切りとなる。また、今後も恒久的に続く保証はない。

日産のラインアップでは、SUV「エクストレイル」がモーター駆動のハイブリッドシステム「eパワー」を搭載した最上級グレードで500万円台。また、足元ではEVの販売台数が世界的に伸び悩み、中国では熾烈な値下げ合戦が繰り広げられている。トレンドや景気動向にユーザーは正直だ。

筆者はもともとエンジン車好きだ。一方、企業のサステイナビリティ活動を記事にしている仕事柄、自らの移動やライフスタイルでどれくらいのCO2が排出されているのか、つい意識してしまう。2台のEV試乗の合間に「純内燃機関車」である「スカイライン」にも乗った。エンジン始動の音や振動にいつもの安心感やワクワクを覚えたのと同時に、試乗で無駄に大気を汚染してしまったことに自責の念を抱いた。

中長期的には、世界的にEVの比率が上がるのは確実だと言われる。独ロバート・ボッシュは今年4月時点で、欧州では2030年に新車の7割以上がEVになるとみる。ただ、各国の政策動向などさまざまな不確実要素があり、普及への確固たるシナリオはないのが実情だ。

脱炭素化に向けて官民が取り組む中、現時点のEVは「変化」の最中にあるだろう。その価値に現時点で白黒をつけるのは時期尚早で、賛否両論あってしかるべきだと改めて感じた。

(中村 俊甫)