今後は製造元の取り組みがCEVの補助額に反映される

 電気自動車(EV)などの購入費用を補助する国の「クリーンエネルギー自動車(CEV)補助金制度」が新しくなった。車両性能だけでなく、充電や整備網、部材の調達力など自動車メーカーの取り組みも補助額の審査対象だ。補助制度は高価な次世代車の普及に役立つが、自由競争に水を差しかねない諸刃の剣でもある。米IRA(インフレ抑制法)など露骨な利益誘導策の乱立が懸念される中、日本は欧米との共通ルールづくりにも動く。

 4月に始まった新しいCEV補助金は、メーカーの取り組みと車両のスペックを200点満点で評価し、その合計点に応じて補助額を決める仕組みになった。一部の高額車を除き、EVであれば最大70万円の差が発生するなど、補助額が一律だった従来制度とは大きく異なる。日産自動車やトヨタ自動車、三菱自動車などのEVは昨年度と同じ補助額だったが、ボルボ「XC40」、比亜迪(BYD)「ATTO3」、ヒョンデ「IONIQ5」など、一部の輸入EVは約30万円減額された。日本で販売されるEVのうち、輸入車は約3割(23年度)を占めており、販売にも少なからず影響が及びそうだ。

 7つある評価項目の中で配点に大きな差が出たと思われるのはメーカーの取り組みだ。新制度では、企業が整備する「公共用急速充電器の設置口数」が評価項目の一つになる。「リーフ」「サクラ」などのEVを扱う日産は、全国約1900拠点に急速充電器を整備済みだ。トヨタも国内のレクサス店170拠点以上に急速充電器を設置しており、これとは別に公共施設などでも独自で整備を始めた。

 一方、BYDの国内販売店は23店舗(3月末時点)で、急速充電器があるのは一部の店舗のみ。ヒョンデも自社で設置する急速充電器は数基にとどまる。評価基準には各社のEV販売水準も反映されるが、国産勢と比べると輸入車勢は圧倒的に急速充電器が少ないのが現状だ。

 また、整備人材の育成でも評価が分かれたとみられる。この項目は、店舗における整備士の適切な評価制度の実施に加え、整備学校の運営実績なども評価される。整備学校や関連するメーカー専門コースがあるトヨタ、日産、ホンダ、メルセデス・ベンツなどが高い評価を得たようだ。

 安定した充電網や整備体制は、EV利用の安全・安心を保つ上で必要不可欠だ。国が優先的に補助するのは当然とも言える。

 ただ、今回の補助金の評価項目には、電池や駆動用モーターなど基幹部品の安定確保に向けた取り組みも対象に入った。電池の正・負極材に用いるコバルトやリチウムは、中国への依存度が高い。補助制度を設計した経済産業省は「(調達する)国は指定しないが、調達の安定化を求めていく」(自動車課)としており、企業側は地政学リスクや経済安全保障を踏まえた調達網の構築が求められそうだ。

 補助制度は本来、国産品と輸入品を差別してはならない(無差別原則)。しかし、中国や米国は自国産のEVに有利な政策を打ち出しており、現実は健全な競争環境とはほど遠い状況だ。実は日本にも「国民の税金を使って高価な輸入車の購入を支援するのか」との批判が少なからずある。

 しかし、経産省幹部は「(補助金で)特定の国を排除するようなことはWTO(世界貿易機関)違反になる。自由貿易を維持しつつ、国際的なルール作りをする必要がある」と話す。すでに日本は欧州連合(EU)とEV補助金の共通基準づくりを進めるほか、米国とも戦略物資で共通ルールの策定に動き出した。

 8日からの米国訪問で、岸田文雄首相はバイデン大統領と補助金の支給要件で足並みをそろえるほか、フィリピンのマルコス大統領とはニッケルなど重要鉱物のサプライチェーン(供給網)強化で合意する見通しだ。

 1998年度から始まったCEV補助金は、時代の流れと共に変遷を重ねてきた。電動車普及とともに経済安保環境が厳しくなる今、健全なEV市場の創出に向け、また新たな役目を担うことになる。

(村田 浩子)