損保との根拠に基づく交渉の実施が求められる

 金融庁が2023年6月に実施した「工賃単価に関する調査」で、車体整備事業者が損害保険会社に苦情を申し出た経験がない割合は8割弱に上った。両者の関係は良好に見えるが、実態は違う。調査では「申し出たところで(工賃単価)は変わらない、時間の無駄」といった事業者側の諦めや「損保の交渉姿勢(一方的、押し付けなど)」を問題視する声がある。車体整備事業者と損保との交渉が事実上、機能していない実態が浮き彫りになった。

 調査は金融庁が2023年6~7月、9月に実施し、日本自動車車体整備協同組合連合会(日車協連、小倉龍一会長)に加盟する車体整備事業者3151事業者(回答率74・0%)の回答をまとめた。

 車体整備事業者が損害保険会社に苦情を申し出た経験を聞いたところ、経験がない事業者が8割弱に上った。経験がない事業者の中で理由を答えた1264件のうち、237件が「事前調整や金額に納得しているため」と回答した。ただ「申し出たところで変わらない/時間の無駄」が388件と「納得」を上回ったほか、「損保の交渉姿勢」を問題視する回答も176件を占めた。「交渉するという発想がなかった/相談先が分からない」も合わせて88件あった。

 自由回答には「損保には全部とは言わないまでも、工場側の言い分を聞き入れる体制にして欲しい」という要望や、「独自レートを認めてもらうため、機材や設備投資を実際に見てもらう働きかけをしたが、見にすら来てもらえない」という不満も見られた。

 また「『提示した金額と合わない』との理由で協定を不要に長引かせ、代金回収を困難にすることを止めてもらいたい。経営上、やむなく値引きを受け入れることがある」との声も寄せられた。一方で「納得いかないところは教えてもらい、お互いにスムーズに協定ができるよう画像を共有して良い関係が構築できるよう努力している」という事業者もいた。

 「根拠に基づいた交渉の実施」は車体整備業界でも盛んに啓発されている。損保各社に丁寧な説明が求められることは確かだが、車体整備事業者側も交渉材料を自らそろえ、健全な取引環境を整えていく発想が必要のようだ。