スマホで新車の購入手続きが簡単にできる

 トヨタ自動車が新車購入手続きのデジタル化を急いでいる。顧客がスマートフォンの決済アプリ「トヨタウォレット」で割賦手続きを終えられる仕組みを2023年10月から始め、半年足らずで足元の利用率が5割を突破した。顧客の利便性向上と営業スタッフの業務削減にも効果的で、今後は利用率8割を目指す。必然的にトヨタウォレット利用者数が増えることにもなり、トヨタはローン残高や車両の残存価値をもとに買い換えを提案する機能など、アプリを経由した新たなサービスに力を入れていく。

 トヨタウォレットを手がけるトヨタファイナンス(西利之社長、名古屋市西区)はこのほど、名古屋トヨペットの千種内山店(同千種区)で決済アプリの新機能を報道陣に公開した。割賦手続きはこれまで、顧客が記入した書類を営業スタッフが電子システムに再入力していた。

 23年7月から顧客自身がインターネット上で手続きできるようにしたことに伴い、全国のトヨタ系列販売店の割賦販売はトヨタファイナンスへの「債権譲渡型」に移行した。さらに同年10月からはトヨタウォレット上で手続きできるようにした。

 営業スタッフが商談時に示した支払い条件などの情報をQRコード化し、顧客がスマホで読み取ることでアプリ経由の手続きがスタートする。本人確認や年収など審査に必要な情報の入力、銀行口座の設定、契約締結までの手続きを顧客自身が行える。営業スタッフが個人情報を扱うことがなくなり、コンプライアンス(法令順守)の強化にもつながる。

 自宅でも手続きできるため「子どもが小さく、長時間店舗に滞在できない家族連れなどにはメリットが大きい」とトヨタファイナンスの担当者は話す。支払いプランの変更など、契約期間中の手続きもアプリでできる。

 トヨタが商談のデジタル化を進める背景には、販売現場の負担を減らす狙いもある。商談はグレードやボディーカラー、オプション用品の選定に加えて、割賦、保険提案など多岐にわたる。さらに今後は新たなモビリティサービスが増える可能性もある。トヨタファイナンスの西社長は「顧客ニーズに対応していくためには〝余力〟を捻出する必要がある」と話す。

 アプリによる手続きの比率は、スタートした昨年10月で49・8%、12月で55・5%と「立ち上がりとしては高い」(西社長)。先行導入したモデル販社をはじめ、積極的に取り組む上位20販社の平均利用率は12月ですでに85・9%に達した。デジタル商談比率が上がれば決済アプリのダウンロード数も増える。トヨタの国内新車販売は約150万台規模。これにサービス入庫時などの提案活動を加え「年間100万ダウンロードを目指したい」と西社長は話す。

 アプリ経由の新サービスも積極的に増やしていく。現在、検討しているのが営業スタッフの代替え提案支援だ。アプリには、顧客がローン残高を確認する機能がある。この機能に中古車下取り価格のデータベースを紐づけて車両の残存価格を算定し、ローン残高と比べられるようにしてスタッフに代わり新車への乗り換えを提案するという。

 ソフトウエアの更新でクルマの性能向上や機能追加ができる「ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)」時代では、決済機能を担う金融プラットフォームが欠かせない。トヨタウォレットの普及は、こうした新たな事業モデル構築の一翼も担うことになりそうだ。

(福井 友則)