【米ラスベガス=中村俊甫】ホンダは、グローバル電気自動車(EV)「ホンダ 0(ゼロ)シリーズ」を初披露した。2026年に北米を皮切りに投入する第1弾「サルーン」は、同社伝統の開発思想とこれまでの技術資産を注ぎ込んで開発した。ホンダは、40年までに新車販売の全てをEVと燃料電池車(FCV)にする目標を持つ。世界平均のEV比率(乗用車)は1割を突破したが、足元では販売の伸び悩みも指摘される。EVシェア獲得へのハードルが一段と高くなる中、ホンダは独創的なデザインの新シリーズで充電時間の長さや航続距離といった課題を改善し、利益を伴いつつ、EV市場で存在感を高めたい考えだ。
基幹部品のリチウムイオン電池は、韓国・LGエネジーソリューションとの合弁会社で北米に工場を建設中だ。日本でもAESCやGSユアサとの共同開発、中国ではCATL(寧徳時代新能源科技)との連携強化など、各地域で電池の供給網を整備する。全固体電池も20年代後半の投入に向け、今年、栃木県さくら市で実証ラインを立ち上げる。半導体では台湾TSMCと提携する。ホンダの井上勝史執行役専務は「何とか足場を固めることがほぼできた。先行する競合とやっと同じ土俵に上がるところまできた」と語った。
群雄割拠のEV市場のスタートラインに立った同社は、「勝ち技」として、薄さと軽さ、賢さの3つをキーワードに挙げる。設計面では、スペースを最大限に活用するホンダ伝統の「マンマキシマム・メカミニマム(MM)思想」に立ち返った。走行性能は高いが車重も重く、〝ゴツい〟EVのイメージを覆すことが目標だ。
電費性能は、軽量・高密度な電池パックやエネルギーの変換効率に優れたeアクスルなどを組み合わせ、電池の搭載量を抑えつつ、300㍄(約482㌔㍍)以上の航続距離を目指す。20年代後半には、15分程度で15~80%の急速充電の実現を目指すほか、実績のあるハイブリッド車(HV)の走行データを生かしたバッテリー制御技術を用い、10年後のバッテリー劣化率を10%以下とすることを目指す。
ゼロシリーズ専用のアーキテクチャ(車両構造)をクラウドサーバーとつなげ、ソフト・ハードの両面で安全性と快適性も高めていく。同時に、個人の嗜好に合わせた車内空間の提供も目指す。先進運転支援システム(ADAS)はレベル2(高度な運転支援)を拡張し、一般道でのハンズオフ機能の実現を目指す。出資する米Helm.ai(ヘルムエーアイ)とともに人工知能(AI)を活用して大量の情報を処理する能力を実装していく。
こうした一部の自動運転機能に、ドライバーの操舵をアシストする機構を組み合わせ、新たな「操る喜び」を提唱する。ホンダ初のステア・バイ・ワイヤや「6軸センサー」を採用し、出力や車両姿勢を制御し、路面状況を問わず理想的な旋回性能を目指す。車両デザインはモータースポーツの空力ノウハウを取り入れ、内外装には自然由来や再生可能素材を用いて環境にも配慮する。
伝統的な設計思想と新技術を融合させ、EV市場でゲームチェンジを狙うホンダ。しかし、こうした機能が全て実装されるのは早くても20年代後半の見通しだ。同社は、31年までに二輪を含めたEV事業の営業利益率を5%以上とする方針だが、23年4~9月期の四輪事業の利益率は4・7%にとどまり、稼ぎ頭の二輪事業(営業利益率16・1%)もこれから電動化投資が膨らむ。中国市場などで苦戦を強いられる中、コストのかさむEVシフトを着実に主要市場で進めていく必要がある。ホンダがEVメーカーとして再成長するため、ゼロシリーズが担う役割は大きい。