トラックドライバーに対する時間外労働の上限規制が4月1日から適用されることなどで、輸送能力不足が懸念される「物流の2024年問題」。政府は、物流全体の効率化や生産性向上などの取り組みを加速させる政策パッケージを打ち出して各施策を順次展開し、荷主企業や物流事業者など民間企業も歩調を合わせて対策に乗り出し始めている。持続可能な物流の構築実現に向けた官民連携の挑戦が始まった。
政府は昨年6月、①商習慣の見直し②物流の効率化③荷主・消費者の行動変容―を3本柱とした「物流革新に向けた政策パッケージ」を決定。同10月には緊急的に取り組むべき対策を具体化し、できるものから対応を進めている。
多重下請け構造是正のための運送体制の可視化の義務付けなど、適正な運賃収受を図る措置や、荷主に荷待ち時間削減などの取り組みを義務付ける措置などについて、次期通常国会での法制化を目指す。
自動車メーカーと関連業界団体も対策を急いでいる。1月1日付でいすゞ自動車の片山正則会長がトップとなった日本自動車工業会は、政府が定めたガイドラインを踏まえ、物流の適正化・生産性の向上に向けた「自主行動計画」を策定し、昨年12月に公表した。
荷待ち時間の短縮や運送契約の最適化など全業界共通の対策に加えて、会員企業同士や部品メーカー、部品販社の連携による共同輸送を推進する方針を盛り込んだ。生産部品、完成車、補給部品それぞれの物流を効率化して、ドライバー不足の緩和につなげる。
日野自動車系のネクスト・ロジスティクス・ジャパン(NLJ、梅村幸生社長、東京都新宿区)は昨年7月、全高4・1㍍のダブル連結トラックによる異業種間の混載輸送を開始。1台で大型トラック2・5台分の輸送を行っている。
形状や重量が異なる荷物を積み込むための最適な組み合わせや配車の策定は、量子コンピューターを使った独自の情報処理システム「ネロス」で行い、従来は人の手で約2時間を要した作業時間を約40秒に大幅短縮させた。混載輸送による平均積載率は業界平均のほぼ倍となる65%、最大で89%にまで引き上げた。
モーダルシフトも広がりつつある。スズキは昨年4月に補修備品の鉄道輸送用に31㌳コンテナを導入した。2割だった鉄道輸送比率を4割にまで向上し、ドライバー不足の対策につなげる狙いだ。
サプライヤーの中には2024年問題を商機と捉え、運送事業者向けの新サービスを始める動きも出ている。フォルシアクラリオン・エレクトロニクスは、商用車の運行管理と安全運転支援サービスを提供する新たなプラットフォームを立ち上げる。既存の車載機器にデジタルタコグラフやドライブレコーダーなどの機能を統合してサービスを提供することで、運行管理などの最適化に貢献したい考えだ。
豊田合成の物流子会社TGロジスティクス(堀江亮代表取締役、愛知県一宮市)は、荷量の変動に合わせた輸送計画の立案や現場の声を反映した輸送用の「通い箱」を提案。箱の充填率を上げるため、空きスペースを軽減できる2段式の仕切りを設けたのが特徴だ。仕入れ先にも提案することで、グループ全体で輸送の最適化の実現につなげる。
商用車のメンテナンスを担う新車ディーラーや整備事業者は、運送事業者に対して従来以上に迅速な入庫対応が求められるようになる見通しだ。商用車を取り扱う、ある整備事業者は「24年4月以降の入庫対応について、すでに複数の事業者から相談を受けている」と話す。「入庫時間の圧縮は容易ではない。予防整備を丹念に実施して、1回ごとの時間を減らす方法などで対応するしかない」と頭を悩ます。
トラックドライバーの長時間労働の要因の中には、取引慣行など個々の事業者による努力だけでは見直すことが難しいものもある。東京労働局と東京運輸支局は昨年11月、働き方改革に積極的に取り組む運送事業者を対象に「ベストプラクティス企業への職場訪問」を実施。NLJとユーネットランス(熊澤洋一社長、愛知県豊田市)の関係者から取り組み内容などを聞き取り、好事例を官民で共有・横展開することに力を入れている。