巨額買収で攻めの姿勢が鮮明に

 日本製鉄は、米鉄鋼大手のUSスチールを約2兆円で買収する。鋼材価格の値上げを主導することで業績回復してきた日鉄は、次のステップとして、自動車向けなどの高級鋼の需要拡大が見込まれる北米市場に本格進出する。日系自動車メーカーにとっても北米工場で、日本製の同等品質の鋼板を現地調達できる可能性がある。鉄鋼メーカーが製造工程での脱炭素化に向けて巨額の投資が求められる中、日鉄は大型買収で攻めの姿勢を鮮明にする。

 日鉄は米子会社を通じ、USスチールを約141億㌦(約2兆円)で買収する。実行日は2024年4~9月の予定で、インド、タイでそれぞれの鉄鋼メーカーを買収してきた日鉄にとって過去最大規模の買収案件となる。

 USスチールは自動車用鋼板や電気自動車(EV)などのモーターに使用する無方向性電磁鋼板などに強い。USスチールを加えた日鉄グループの粗鋼生産能力は年産8600万㌧となり、中国の鞍鋼集団を抜いて世界3位に浮上する。

 日鉄がUSスチールを買収して北米事業を強化するのは、日本の鋼材市場の縮小が避けられないことが背景にある。鋼材の主力の供給先である国内の自動車生産台数は少子高齢化による市場のシュリンクで今後、減少が見込まれる。赤字経営が続いていた日鉄は、鋼材価格の値上げや生産能力の削減で業績を回復、次の成長戦略として海外に目を向けてきた。しかし、海外市場は中国系鉄鋼メーカーの存在感が強い。

 そこで注目したのがEV向けなどの鋼材需要の拡大が見込まれる北米市場だ。米国と中国の対立で、中国製鋼板が米国市場で増えるのは避けられる見通し。加えて、USスチールは、製造時の二酸化炭素(CO2)排出量を削減できる大型電炉で、自動車など向けの高級鋼を生産する技術で先行している。「(脱炭素化という)世界の潮流と新しい経済安保による地域の規模のニーズに応える」(日鉄・橋本英二社長)ため、USスチールを買収する。

 日鉄のUSスチールの買収は、日鉄の米国系自動車メーカー向け事業を拡大することによる納入先の多角化につながる。また、日系鉄鋼メーカーが輸出した半製品による鋼板を現地調達している日系自動車メーカーにとっても、北米市場で生産するグローバルモデルに日本製と同等レベルの品質の鋼材を現地調達できる可能性がある。

 また、USスチールは鉄鉱石を採掘する鉱山や主要拠点の大半を米国内に持っており、原材料の調達から製造までを一貫して米国内で担える体制を築いている。このため、通商問題などのインパクトを抑えることができる利点もある。

 世界の粗鋼生産能力の半分を占める中国系鉄鋼メーカーによる生産によって、供給過剰の状態が続き、中国を除く多くの鉄鋼メーカーが生産能力を削減している中、巨額投資で、グループ生産能力を増強する日鉄。再生可能エネルギー由来の水素を用いて製造する「グリーンスチール」の量産技術やCCUS(CO2の回収・貯留)技術や、電炉による高級鋼の量産技術の確立といった巨額投資の原資を捻りだすためにも、北米事業でどう稼ぎ出せるかが生き残りを左右する。

(野元 政宏、村田 浩子)