ソフトバンクグループは5日、アイルランドの車載通信企業大手、キュービックテレコムに約4億7300万ユーロ(約747億円)を出資し、車載通信事業に本格参入すると発表した。2024年6月をめどにキュービックの株式の51%を取得する。キュービックは車載通信プラットフォームを提供しており、約190カ国の通信キャリアに対応できる汎用性が強み。株主にはフォルクスワーゲン(VW)のソフトウエア子会社などが名を連ねる。両社は急成長するコネクテッドカー市場を支えるとともに、中長期的にはモビリティ業界にとどまらない、幅広い通信基盤となることも目指す考えだ。
キュービックは2009年設立の新興企業だが、VWソフトウエア子会社のカリアドや米半導体企業のクアルコムが主要株主だ。現在はVWグループを中心に、累計1700万台以上の車両に通信プラットフォームを提供しているという。1日のデータ通信量は10億件に上る。
同社のプラットフォームの強みは世界約190カ国の車載通信をワンストップで実現することだ。ソフトウエアが車両の価値を主導する「ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)」の潮流の下、自動車メーカーやメガサプライヤー各社は無線通信を使った車両機能のアップデートを視野に入れ、開発を進めている。
ただ、ソフトの更新を支える車載通信ネットワークには現状、多くの課題が残る。最たる例が各国での規制の違いだ。従来、自動車メーカーは各国の通信キャリアと個別に契約し、通信ユニットの設計や開発、管理も個別にする必要があった。
キュービックは同社のプラットフォームを介して90以上の通信事業者と契約することで、地域にとらわれずサービスを提供することを可能にしている。また、データの分析機能により、車両ごとに通信料を把握してエンドユーザーに請求する仕組みも可能になる。すでにVWグループなどでメインプラットフォームとして使用されているという。
ソフトバンクにとっても、海外企業への出資規模としては過去最大だという。背景には、キュービックとともにモビリティ以外も含めた幅広い情報通信基盤の構築を目指す狙いがある。
ソフトバンクは人工知能(AI)を活用し、自動運転車やドローン、ロボット、さらに公共インフラなどが広くつながる「次世代社会インフラ」の実現を中長期的に目指している。キュービックとの協業も車載ソフトの更新による機能拡張のみならず、ヘルスケア、小売、金融などに幅広く活用していく考えだ。
ソフトバンクグループが持つ資産や技術との連動にも取り組む。衛星などを使う非地上系ネットワーク(NTN)ソリューションで、基地局の電波が届かないエリアでもサービスを提供することを目指す。同社が出資する地図サービス企業、米マップボックスとは連携に向け具体的な協議を始めているという。
急成長するコネクテッドカーやSDV市場について、ソフトバンクは今後、年間37・5兆~60兆円の付加価値を生み出すとみている。グローバルでの幅広い通信プラットフォーム構築に向け、まずは車載通信のデファクトスタンダード(事実上の標準)となることを目指す。