パワー半導体再編の構図は、これまで「ローム・東芝」対「デンソー・富士電機」という2極で語られてきた。ここに三菱電機が加わり、本格的な再編フェーズに入った。ただ、ジャパンディスプレイ(JDI)やエルピーダメモリなど見ると、エレクトロニクス関連の再編は厳しい結果になった例も少なくない。
「一歩進んだということだ」。三菱電機関係者は統合発表後、そんな本音を漏らした。
同社はもともと、パワー半導体で世界有数の実力を持つが、国内再編では主導権を握れずにきた。ロームと東芝の関係、さらには政府支援の枠組みもあり、交渉は思うように進展しなかった。一定の競争力を維持できており「急いで再編に踏み込む必然性が相対的に弱く、孤高を保てた」(関係者)という。
状況を変えたのが、3月6日に表面化したデンソーによるロームへの買収提案。これは一種の“外圧”になった。ロームにとっては独立性を維持するか、車載サプライチェーン(供給網)に組み込まれるかの判断を迫られる事態となった。社内の意思も大きく分かれたもようだ。
もともと、「ロームと東芝の関係も、必ずしもうまくいってない面があった」(同)。その中で、デンソーからのラブコールが入り、東芝側は「ロームさんはどう判断するのか」(同)と構えていたところへ、三菱電機が登場した。
三菱は鉄道・電力など社会インフラ向けから車載まで幅広い顧客を持つ。ローム、東芝、三菱電機のデバイスとシステムの知見の融合で、用途の分散ができる可能性がある。電気自動車(EV)市況の変動リスクを吸収する上で大きな意味を持つ。単一用途依存になる可能性が高いデンソー案とは異なる安定性を提示できそうだ。
ロームの東克己社長は3月27日、3社連合になった場合「バランスよいポートフォリオを構築できる。それぞれの得意分野を結集した効果が期待できるが、大きな方向性が1つあった方がよい」と話した。
「交渉の時間軸」にも影響が見込まれる。ロームの企業価値が引き上げられれば、デンソーによる買収のハードルは上がる。ローム側から見れば、時間を稼ぎながらより有利な条件を引き出すカードとなり得る。
ただし、課題はここからだ。3社連合が実現した場合でも、どこが主導権を握るのか、重複する生産ラインをどう整理するのか、雇用や拠点をどう維持するのかといった問題は避けて通れない。
加えて、デンソーがこのまま引き下がるとは考えにくい。「電動化でパワー半導体は自動車の中核部品へと格上げされており、デンソーはトヨタのマルチパスウェイを支えないといけない」(識者)。ロームは極めて重要なピースだ。条件の見直しや別の提携案など、再提案の余地も見込まれる。
東社長はデンソー案について「ここで拒絶する考えはない」としつつ、「今夏頃には一定の進捗を示さないといけない」と明かす。
デンソーは同日、「現時点で当社からコメントすることはない」(広報)としている。
残されたルネサスエレクトロニクスはどうか。柴田英利社長は2月の決算会見で、再編機運の高まりについて「私たちが積極的に関わるということは、今のところはフィットしないのかなと思っている」と話していた。
■「事業一体化と戦略明確化がカギ」
早稲田大学ビジネススクールの長内厚教授の話
「パワー半導体の再編は、『規模』か『需要』かという2軸のせめぎ合いだ。東芝や三菱電機のように生産規模の拡大で競争力を高める路線と、デンソーのように自動車という確実な需要を取り込むことで成長を狙う路線だ。ロームにとって前者なら顧客の広がりとスケールメリットが見込める。後者なら安定的な販売先を確保できる半面、取引先の偏りという制約を抱える。需要の読み違いは即、投資回収リスクに直結する。誰と組むかは非常に重要な戦略の選択となる」
「日本勢はこれまでも統合後の戦略不一致で十分な成果を上げられなかった例がある。再編の成否は規模の足し算ではなく、事業の一体運営と市場戦略の明確化にかかっている。統合しても旧組織の意識を引きずり、設備の重複を十分整理できないと統合効果が発揮できない。日本の半導体産業が真に競争力を取り戻せるかどうかの試金石と言える」
(編集委員・山本 晃一)

















