デンソーが、電動車向けのパワー半導体事業の強化に向けてロームの買収を検討していることが3月6日、明らかになった。SiC(炭化ケイ素)パワー半導体を内製するデンソーは、トヨタ自動車など日本の自動車メーカー各社で車載向けSiCパワー半導体のニーズが高まると判断。ロームを傘下に納めて規模を拡大し、欧米や中国に対抗できる体制を整える意向だ。世界的に競争が激化しており、業界再編が進む可能性がある。
デンソーがロームを完全子会社化などの提案をしたと報じられたことに関してロームは「デンソーから本件(買収)を含む株式取得の提案を受けたのは事実。現時点で具体的に決定した事実はない」とのコメントを発表した。
車載向け半導体が売り上げの約半分を占めるロームは、電気自動車(EV)シフトが加速してパワー半導体市場が拡大すると想定。生産能力を増強するための設備投資を大幅に増やしてきた。しかし、EV市場の成長率が鈍化したのに加え、パワー半導体市場では中国系の半導体メーカーが価格攻勢を仕掛けてきている。
過剰な設備投資や在庫が増加した影響で、ロームの2025年3月期連結業績は最終損益が500億円の赤字となった。現在は拠点の統廃合や不採算事業の縮小・撤退、SiCパワー半導体事業の収益性改善に取り組んでいる。
経営再建の一環で昨年5月、デンソーと戦略的パートナーシップを締結。製品の補完や開発分野での連携も進めてきた。
デンソーは自社で製造する電動車向けデバイス用のSiCパワー半導体を内製しており、これがトヨタの新型「RAV4」のハイブリッドシステムに搭載された。日本メーカーのEVやハイブリッド車(HV)の電動デバイスの多くがシリコン製のパワー半導体を搭載している。
デンソーは今後、日本メーカーが市場投入する電動車には電力損失を抑制できるSiCパワー半導体の搭載が本格化すると見て、SiC事業を強化している。デンソーはパワー半導体に強い富士電機とSiCの生産で提携しているが、この分野に強いロームにも注目してきた。
デンソーの25年3月時点でのロームへの出資比率は0.3%だったが、パートナーシップ契約を締結後、株式を追加取得して4.98%(25年9月30日時点)に引き上げた。SiCパワー半導体事業の競争力を強化するためには、この分野で先行するインフィニオン・テクノロジーズやオンセミ、さらに低価格戦略で存在感が増す中国勢に対抗できる規模を整える必要がある。
こうしたデンソーの思惑の障害となっていたのがシリコン製パワー半導体に強い東芝グループだ。ロームは東芝が非上場化する際に出資した国内ファンドに3000億円を拠出したほか、パワー半導体の製造でも協業するなど関係が深い。その東芝が昨年8月、SiCウエハーを手掛ける中国の山東天岳先進科技(SICC)と提携すると、中国への技術流出を懸念するロームが強く反発した。これを受けて東芝はSICCとの協業を1カ月後に破棄した。この件でロームとの関係は微妙になっているという。この機に乗じてデンソーはロームを自社の陣営に引き込む戦略とみられる。
EV市場の先行きが不透明な中、規模が競争力となるパワー半導体事業は厳しい状況が続く。ルネサスエレクトロニクスは、高崎工場(群馬県高崎市)で25年に計画していたSiCパワー半導体の量産を断念し、開発も中止した。協業するSiCウエハーを製造する米国のウルフスピードが経営破たんして、ルネサスも多額の損失を計上した。
日本政策投資銀行や伊藤忠商事などが出資してパワー半導体の受託生産を目指していたJSファンダリは、中国製の価格攻勢に対抗できずに昨年7月にあえなく破産した。
EV市場の成長率の鈍化でパワー半導体市場の成長が見込めない中、欧米、中国と比べて規模で劣る国内のパワー半導体業界が生き残るためには、デンソーがロームを買収するなどの業界再編が避けられない状況だ。
今後の動向が注目されるのが昨年11月、泗水工場(熊本県菊池市)でパワー半導体の新しい製造棟を稼働させたばかりの三菱電機だ。EV市場の拡大を想定してSiCパワー半導体の生産を増やしていく予定だったが、当初想定していた需要が見込めないことから生産能力を増強する計画を見直すなど、パワー半導体事業の再構築を迫られている。三菱電機の漆間啓社長は、国内のパワー半導体の業界再編に意欲的だ。
EVをはじめとする電動車市場の動向やパワー半導体市況によって国内パワー半導体の業界再編は加速する可能性がある。
(編集委員・野元 政宏)

















