パワー半導体が一気に業界再編の渦に デンソーが鳴らした号砲 対中国で残された時間少なく

デンソーから買収提案を受けているロームが、東芝とパワー半導体事業の統合を交渉していることが明らかになった。その東芝には、三菱電機が協業を模索する動きもある。中国系企業の台頭で厳しい事業環境に置かれている国内のパワー半導体業界だが、デンソーが鳴らした号砲によって業界再編が一気に動き出す可能性が出てきた。

パワー半導体は電気自動車(EV)の航続距離などの性能を大きく左右する。

ロームは東芝が非上場化する際、国内の投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)を通じて合計3000億円を拠出するなど、両社の親交は深い。ロームは出資した後も2024年7月から、東芝との資本提携を含む提携強化を検討してきた。主力のパワー半導体は東芝がシリコン製、ロームがSiC(炭化ケイ素)製で、すみ分けができている。経済産業省が推進するパワー半導体の国内の競争力強化を推進するための補助金最大1294億円を受けて、両社はシリコンとSiCのパワー半導体を共同生産する体制を整備中だ。

ただ、昨年8月に東芝の半導体子会社が中国企業とウエハでの提携で合意すると、ロームは技術流出を警戒して反発。経産省も懸念を示していたことから東芝は短期間で中国企業との提携を破棄した。この件で東芝とロームの関係が冷え込んだ隙を突くように、デンソーはロームに買収を提案した。

EV市場は中国などを除いて成長率が鈍化しているが、トヨタ自動車をはじめとする日系自動車メーカーは26年から市場投入を本格化するEVや、ハイブリッド車(HV)の電動性能を向上するため、SiCの搭載を本格化する。SiCはシリコン製よりコストが高いものの、電力損失を低減できるため、EVの航続距離の伸長やパワーアップにつながる。

車載に適したSiCニーズへの対応を迫られているデンソーだが、SiCの内製を本格的に始めたばかり。デンソーはSiCウエハを製造する富士電機と、経済産業省から支給される補助金最大705億円を活用してSiCパワー半導体の生産能力を増強する事業を進めている。

このデンソー・富士電機連合に、SiCに強いロームが加われば車載向けパワー半導体の生産規模拡大と一貫生産体制を整備できる。価格競争力の高いSiCパワー半導体で攻勢をかけてシェアを拡大している中国系に対抗する上で、ロームの力が必要なのだ。

デンソー、東芝両方からラブコールを受ける格好となったロームの心境は複雑だ。主に日系自動車メーカーのEV向けを想定してSiCパワー半導体の生産能力を増強するための先行投資や、SiCウエハ事業から撤退した影響で2025年3月期は500億円の最終赤字に転落した。現在は事業のリストラを進めている。

ロームは車載向けSiC事業で失敗してきただけに、自動車部品メーカーであるデンソーの傘下に入るのはリスクが高いと映る。ロームはデンソーとのアナログ半導体事業での協業を通じて信頼感を積み上げてきたが、買収されると、これまで重視してきた独立性の立場も失う。

これに対して東芝とパワー半導体事業の統合に踏み切れば、高い成長が見込まれるデータセンター向けなどの利益率の高い非車載分野で事業拡大が見込める。

ロームを軸にした国内のパワー半導体業界の再編が注目される中、日系の中で世界シェアがトップの三菱電機も業界再編に積極的で、東芝に接近している。国内のパワー半導体業界は、ロームがデンソー・富士電機連合に合流するか、またはデンソーとは袂を分かって東芝と組み、さらに三菱電機も加わるなど複数の組み合わせが考えられる。

現在、日米欧の自動車メーカーは中国で生産している電動車を除いて中国系のパワー半導体を採用していない。それでも中国政府の支援を受けた中国系企業のSiCパワー半導体やウエハの生産設備が26年度以降、本格的に稼働する予定だ。中国国内向けで消費できない中国製SiCパワー半導体が海外市場に大量に輸出されることが確実視されている。日系半導体各社が業界再編を決断するのに残された時間は長くない。

(編集委員・野元 政宏)

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