4月に新体制を発足させ、2026年度までの中期経営計画と30年に向けた経営構想を公表した太平洋工業。電動車向けの売上比率を足元の約25%から26年度に50%以上にするほか、社内公募で新規事業を生み出す「オメガプロジェクト」も始める。小川哲史新社長は「今後も必要とされる会社であるために、開発や提案、改善の手を止めてはいけないし、新しいことにも目を向けられるようにしていきたい」と語る。

 EV向け電動膨張弁を量産開始

 ―世界で電気自動車(EV)シフトが進む

 「当社としてEVシフトは成長の機会だと思っている。その一方で、これまでもトヨタさんがおっしゃってきたように『マルチパスウェイ』でクルマを展開する中で、ガソリン車やディーゼル車を必要とする国や地域も残るし、ガソリン車が減ってハイブリッド車(HV)が増えたり、プラグインハイブリッド車(PHV)もリーズナブルになって台数が増えるなど、車種構成が変わっていく。ここ5年から10年は過渡期になるだろう。超ハイテン(高張力)部品など、我々の開発の方向性を大きく変える必要はないが、きちんとスピードについていくことが大事だ」

 ―電動化部品としてEV向け電動膨張弁を受注した

 「電動膨張弁は、バルブを生産する北大垣工場(岐阜県神戸町)で号口(量産)の生産が始まっている。EVになると、従来のエンジンの熱を使ったエアコンではなく、ヒートポンプ式のエアコンシステムという家庭用エアコンのような仕組みに変わる。そこで必要とされるバルブがいろいろあり、当社が長年、培った家庭用エアコン向けの技術やバルブメーカーとしての知見を生かせる。こうした部品を国内だけではなく海外、特に欧州の自動車メーカー向けに提案していく。今までは、どちらかと言うと、タイヤのバルブやコンプレッサー用のバルブ、カーエアコン用のバルブなど、限られたところで勝負してきたが、EVになることで新しい広がりもあるので、開発に力を入れている」

 新工場のエリアには金型工場やR&Dセンターも

 ―東大垣工場(岐阜県大垣市)の隣接地で稼働する新工場の狙いは

 「我々がこれまで開発し、お客さまに提案して受け入れられて受注につながってきたことの積み重ねとして、新しい場所が必要になったというのが発端だ。せっかくつくるのなら、過去の延長ではなく、将来を見据えた工場にしたいと働きやすいレイアウトにもこだわった。車体部品工場のほか、R&Dセンターや、超ハイテン部品の生産性を上げるための金型工場など、当社の成長につながるものを織り込んだプロジェクトだ。R&Dセンターでは、IoT(モノのインターネット)関連の新事業の製品開発や樹脂部品の防音性、防振性の向上などにも取り組んでいく」

 ―社内公募型の新規事業創出プロジェクトを始めた

  「先日、一次審査を終えたが、100件ほどの応募があった。自動車部品をコアにやってきて、4、5年前なら新規事業には興味のない従業員が多かった。しかし、既存のコアビジネスでもEVに向けた新しい提案が必要だったり、自分たちのコア技術をモビリティ以外にも活用できるとわかったり、今は状況が変わってきた。モノになるかどうかは別にして、自分で新しいアイデアを考えるという雰囲気は醸成されている。(発表済みの)牛体調監視システム『カプセルセンス』の開発責任者の机の上には、自動車の資料はなく、畜産関係の雑誌ばかりだ(笑)。畜産業の社会課題を解決できる製品として、志(こころざし)を持って取り組んでくれているのが何よりうれしい」

 

〈プロフィル〉おがわ・てつし 2001年同志社大学商学部卒、05年トヨタ自動車入社。11年太平洋工業入社、同年執行役員。14年取締役常務執行役員、18年取締役副社長、21年代表取締役副社長コーポレート企画センター長などを経て、23年4月より現職。1978年8月生まれ、45歳。岐阜県出身。

(堀 友香)