東レは28日、遮熱性と電波透過性、透明性を両立した「次世代モビリティ向け高遮熱フィルム」の量産技術を確立したと発表した。電気自動車(EV)など次世代モビリティへの活用を想定し、高い遮熱効果による冷房消費電力の抑制で航続距離の伸長と乗員の快適性の向上、さらには自動運転に不可欠な車両の通信環境確保に貢献する。フロントガラスやサンルーフへの適用を目指して顧客での評価を進めており、2025年の量産開始を目指す。30年ごろには売り上げを数十億円規模に成長させたい考えだ。
同社は、独自のナノ積層技術を用いたポリエステルフィルム「ピカサス」を提供している。今回、より複雑な積層を高精度で実現する新たな積層装置を開発した。
EVは航続距離が課題で、エアコンの電力消費を抑えるため、ガラスの遮熱性向上が期待される。反射率アップにはフィルムの層数を増やすことが有効だが、同じ厚みで重ねると色づきが発生し、ガラスへの適用は難しくなる。そこで同社は5ナノメートル(ナノは10億分の1)の「超極薄層」から数百ナノメートルまで、厚みを変えてポリマーを数百層重ねる技術を確立し、透明性と遮熱性を両立した。量産EVでの市街地実車テストでは航続距離が5%超伸びたという。
次世代車に求められる安定した通信性能も確保した。従来の金属スパッタガラスでは困難だった、5G(第5世代移動通信システム)の通信電波への高い透過性も確認した。
採用に向け、フロントガラス内に入れ込める横幅1.6メートルのフィルムのサンプル提供を始めており、国内外の自動車メーカーなどと協議している。岐阜工場(岐阜県神戸町)で量産する予定で、今後のEV市場の伸長とともに、将来は100億円規模に伸ばしたい考えだ。
(2023/6/29修正)