世界最大の自動車市場である中国が変貌しつつある。急速な電気自動車(EV)シフトによって新興勢が台頭する一方、EVの品ぞろえに乏しい日本勢は苦戦を強いられている。勢いを増す中国勢は、日本メーカーの牙城である東南アジアでも攻勢をかけはじめた。日本メーカー首脳が危機感を募らせるが、一方で新興メーカーの大半は赤字状態で「今後2~3年で淘汰される」との指摘もある。中国のEVバブルは夢か現実か。
「マーケットの変化が想定よりも早い。出遅れ感は否めない」―。4月に開催された第20回「オート上海2023」(上海モーターショー)の会場を訪れたホンダの青山真二副社長は率直に「出遅れ」を認める。
コロナ禍を経て4年ぶりの本格開催となった上海モーターショー会場は熱気に包まれていた。ただ、人気の中心は日米欧ブランドではなく、現地の新興EVメーカーだ。先進的な内外装デザインと奇想天外なギミック(仕掛け)、大型モニターがズラリと鎮座するコックピット、そして圧倒的な価格競争力―中国のショーでお馴染みだった「パクリ車」もほとんど見かけない。コロナ禍で国際的な往来が途絶えた中国市場は、3年足らずで劇的に変わっていた。
市場の変化は数字にも表れている。中国ではEVなどの「新エネルギー車(NEV)」が爆発的に伸びており、2022年の販売台数は約689万台と前年からほぼ倍増した。EVだけでも約537万台が売れ、日本の新車販売(約420万)を大幅に上回った。
この煽(あお)りを食ったのが日本勢だ。22年の新車総市場が前年比2・1%増の約2686万だったのに対し、日本メーカー6社合計の販売は約452万台と前年比で1割以上落ちた。半導体不足もあるが、それ以上に急伸するEV需要に対応できなかったことが大きい。ホンダの井上勝史執行役専務は「中国では『エンジンのホンダ』のイメージが強い。それが弱点にもなっている」と振り返る。
窮地に立つ日本勢も上海ショーで反転攻勢の狼煙(のろし)をあげた。トヨタ自動車とホンダはEVブランド「bZ」と「e:N」の新型モデルをそれぞれ披露した。共通するのが「24年投入」と「中国専用モデル」であること。開発を現地化することでリードタイムを縮め、インフォテインメント機能など中国特有のニーズも反映するという。
日本メーカーに限らず、現地企業と合弁を組む欧米メーカーの多くはこれまで、グローバルモデルを中国の嗜好にアレンジして現地生産してきた。ただ、ここ数年間で中国メーカーは技術者やデザイナーを海外から招き入れ、急速に実力をつけた。東風汽車トップの経験を持つ日産の内田誠社長は「中国メーカーは当時から大きく様変わりしている。開発のスピード感が全然違う。(クルマづくりの)考え方を変えないといけない」と危機感を募らせる。
ただ、進出国のニーズを巧みに採り入れて成長するのは日本メーカーのお家芸でもある。米国では高品質かつ手頃な価格の小型車で需要をまず開拓し、高級ブランドやピックアップトラックなどへ車種を広げて収益基盤を築いてきた。自国の軽自動車を例に挙げるまでもなく、東南アジア向けでも地域に根差した商品開発で圧倒的なシェアを握るに至った。地道な原価低減も強みで、ホンダの井上執行役専務は「中国現地メーカー車をしっかり研究してコストダウンを図る」と話す。
三菱自動車は3月、新型「アウトランダー」の中国生産を停止した。新型車がいきなり販売不振に陥る前代未聞の出来事だ。日本や米国で高い評価を得ているが、中国では「ガソリン車」というだけで消費者はソッポを向いた。加藤隆雄社長は「撤退は決定していないが、何らか改革が必要だ」と苦悩する。
中国汽車工業協会は、23年のNEV販売台数が900万台に達すると予想する。3台に1台がNEVとなる見通しだ。急速なEVシフトは中国国内のローカルトレンドか、それとも世界の潮流か。EVで狂乱する中国市場の今を追う。