「6・1号館を見たか?」―。上海モーターショーを視察した日本メーカー関係者の間で何度も繰り返された会話だ。ショー会場の国家会展中心(NECC)は展示面積40万平方㍍を誇る。上海が「世界最大の自動車ショー」と言われる所以(ゆえん)だが、6・1号館が注目された理由は新興電気自動車(EV)の〝御三家〟と言われる上海蔚来汽車(ニオ)、小鵬汽車(シャオペン)、理想汽車(リ・オート)が勢ぞろいしていたからだ。
新興EV御三家の祖業はいずれもIT(情報通信)系で、ニオとリ・オートの創業者は自動車情報サイトを手がけていた。シャオペンの創業者は、モバイルブラウザ会社を立ち上げ、中国IT大手のアリババに売却した経緯を持つ。創業時期も近い3社は、いずれもEV専業の米テスラと同社を率いるイーロン・マスク氏に刺激されてEV事業に進出したとされる。3社は米国で上場も果たしている。
2022年の新車販売も12万~13万台とほぼ横並び。同年の新エネルギー車(NEV)販売実績(約689万台)と比べるとまだメジャープレイヤーとは言い難い。それでも注目される理由は、既存の自動車メーカーが思いつかないような奇抜な発想の新車を次々と生み出しているからだ。
御三家で最も勢いがあるニオの最大の特徴は、電池交換方式「BaaS(サービスとしてのバッテリー)」を採用している点にある。ニオのEVは充電の手間がかからず、ユーザーは電池交換ステーション(ST)を利用する。すでに中国で1千カ所以上の電池交換STを整備し、25年までに3千カ所に増やす計画だ。車載電池のサブスクリプション(定額利用)サービスで車両価格も抑えられる。中国では急速なEV普及で〝充電渋滞〟が社会問題となっており、BaaSはニオの最大の強みとなっている。
新興EVメーカーが提供する価値は、従来の「新車売り切りビジネス」とは一線を画す。中国経済紙の記者は「ニオのユーザーは、手厚いサービスを受けるためにクルマを購入している」と解説した。充実したメンテナンスサービスをはじめ、ユーザー専用のラウンジもある。SNS(交流サイト)上のユーザーコミュニティーも充実しており、上海モーターショーでは、ニオのオーナーがボランティアとして展示車両を紹介していた。まるでテスラさながらの顧客ロイヤルティーだ。
日系自動車メーカーの現地担当者によると、中国にはNEVブランドが100社以上ある。一方で「2~3年で半分くらいに淘汰されるのでは」と言われているという。新興EV御三家の創業者はいずれもIT系出身で、果敢な先行投資で市場をまず抑える事業モデルでも共通する。販売が伸びる一方で、3社とも創業以来、一度も黒字化していない。ただ、先行するテスラや比亜迪(BYD)は値引き競争を早くも繰り広げている。先行組と現地の新興勢力がぶつかり合う中、後発の日本勢はどこに存在意義を見いだすか。EV事業では厳しい戦いを強いられそうだ。