ラピダスが半導体工場を建設する千歳市の「千歳・美々ワールド」

 若手人材の育成、確保に向けた産業間競争が道内で活発化しそうだ。次世代半導体の量産を目指すラピダスが千歳市での操業準備を進める中、産学官連携で半導体産業に必要な専門人材を道内で育成しようという取り組みが動き出した。一方、少子化によってさまざまな産業で働き手の確保に苦労している中、道内企業からはさらなる人手不足を懸念する声もくすぶる。新たな産業集積への期待は、道外に流出する若者を食い止め、働き手の「総量」底上げにつながるか。最先端半導体工場の進出決定で沸き立つ道内の人材市場は、ターニングポイントを迎えている。

 半導体産業の集積を見据えた準備が急ピッチで進んでいる。トヨタ自動車やデンソーなども出資するラピダスが千歳市に半導体製造工場を建設すると発表したのは2月28日。それからおよそ3カ月という短期間のうちに、受け入れ体制を整備する動きが道内で相次いでいる。

 北海道経済産業局は25日、半導体関連産業の集積に必要な人材育成の在り方を話し合う「北海道半導体人材育成等推進協議会」を設置し、6月2日に初会合を開催すると発表。同局の岩永正嗣局長は「ゆっくりしている暇は全くない。先を見据えて(人材育成に向けた組織を)立ち上げる。スピード感を強く意識している」と述べ、4年後に予定するラピダスの半導体量産に向け、専門人材を道内で育成できる環境づくりを急ぐ必要性を強調した。

 同協議会にはラピダスをはじめ、デンソー北海道、パナソニックインダストリー、FJコンポジットなど自動車関連サプライヤーも含めた企業10社、北海道や千歳市、文部科学省など4つの行政機関、理系学部を持つ大学や高専など12の教育機関が参画した。まずは半導体関連の企業が求める人材ニーズを把握し、人材を輩出する教育機関との需給ギャップが生じていないかなどを官民一体となって調査する。

 一方、半導体産業の集積に合わせた人材確保には、若者の道外への流出を防ぎ、吸引するための取り組みが欠かせない。少子化、道外への人口流出で道内のさまざまな産業で働き手不足が続いている。特に中小規模の製造業では、人手が足りず、人繰りに四苦八苦しているケースも少なくないとみられる。半導体産業の集積への機運が高まっている状況について道内で自動車部品を製造するあるサプライヤー関係者は「道内経済活性化への期待が大きい半面、人材確保はより厳しくなるのではないかとの心配もある」との本音をもらす。

 こうした中、新たな産業集積に向けて専門人材の育成と働き手の「総量」を確保するためにカギを握るのが、理系人材の道内での囲い込みだ。道内の大学と高専で半導体に関連する学部・学科の入学定員は約5千人ある。しかし、その半分、高専に限ると7~8割が道外に流出しているとの指摘もあり、若い人材を道内にとどめるための手立ては不可欠だ。

 全国を上回るスピードで人口が減少する北海道。製造業だけではなく、自動車販売、整備も含めた流通関連企業でも人材不足は慢性化しているものの、改善への糸口は見いだせていない。

 半導体産業集積に向けて産、学、官が連携した新たな人材育成、確保への取り組みは、道内の人材市場全体が活性化するための起爆剤としても期待される。

(西村 真人)