日立アステモはホンダとの関係強化でEV関連事業の拡大を図る(写真はEV用モーター)

 総合電機メーカーが自動車関連事業の見直しを迫られている。三菱電機は不振の自動車機器事業を分社化し、将来の売却も視野に入れる。日立製作所は自動車部品を手がける連結子会社、日立アステモの出資比率を引き下げて関与を薄める。パナソニックホールディングス(HD)は事業拡大が見込まれる車載用電池関連への投資に重点を置く。背景にあるのが電気自動車(EV)シフトに伴う産業構造の変化だ。電機大手の経営判断が業界再編の呼び水になる可能性もある。

 三菱電機の2023年3月期の自動車機器事業の営業損益は462億円の赤字で、前期(315億円の営業赤字)から赤字幅が拡大した。誤算の一つが主な取引先である日本の自動車メーカーのEVシフトの遅れだ。成長を見込んでいたEV向け駆動用モーター関連部品の出荷も低調で、漆間啓社長兼CEO(最高経営責任者)は「想定しているだけの規模にならなかった」と語った。

 駆動用モーターは今後の成長が見込める半面、さまざまなサプライヤーが参入して受注や価格競争が早くも激化している。漆間社長は「よりスピーディーに運営するために(自動車部品事業を)分社化する」と説明した。まず「相当の赤字が数年続いて成長は難しい」(加賀邦彦専務執行役)とするカーマルチメディア事業からは撤退して身軽になる。

 一方、電動パワーステアリングシステム(EPS)など、電動車時代にも強みを生かせる分野はコスト削減と効率化で競争力を強化する。成長を見込む電動車や先進運転支援システム(ADAS)関連では、外部企業と組んで付加価値を持たせて事業拡大を目指す。EV向けでも他社と連携してモーターとインバーター、減速機を一体化した「eアクスル」を展開する方針だ。

 EV時代にも生き残れるよう、事業の選択と集中を急ぐが、その先には事業売却も見え隠れする。EVは搭載する部品点数が内燃機関車の最大半分程度に減るとも言われ、多くのサプライヤーが減収分を稼ごうとEV向け部品事業に殺到している。三菱電機は分社化を契機に事業の持続可能性も見極めると見られる。

 EVシフトによる自動車関連事業の見直しは日立も同様だ。同社の自動車部品子会社とホンダ系サプライヤー3社が経営統合して発足した日立アステモは、資本構成を9月に変更する。現在は日立が66・6%、ホンダが33・4%を出資しているが、日立とホンダが40%ずつを出資し、残りの20%を投資ファンドが保有して将来の株式公開を目指す。日立の小島啓二社長は「EVシフトが(想定より)早く動いている。取引先の自動車メーカーが何をやっていくのかを考え、より深い関係を構築するにはホンダが主導した方が良いと判断した。ホンダの関与を強めてもらう」と狙いを説明した。

 日立アステモの2023年3月期の調整後EBITDA(利払い・税引き・償却前損益)率は3・8%と低調だ。経営統合で規模を拡大し、旧4社の主力取引先だった日産自動車やホンダ以外との取引を増やして収益力の高いメガサプライヤーを目指しているが、目論見通りには進んでいない。このため、40年までに内燃機関から撤退してEVとFCV(燃料電池車)に事業の重点を移すホンダとの関係を強化して、EV向け部品事業を拡大することがメガサプライヤーへの近道になると判断した。

 日立本体は、情報通信や電力、社会インフラなどに事業の重点を置いており、日立アステモが手がける事業とのシナジーが限られることも資本構成を見直す理由だ。ホンダとしては、EV向け駆動用モーターなどの電動車向け部品を数多く手がける日立アステモとの関係を強化するメリットは大きいと見られる。

 電機メーカーはこれまで、電装品やAV(音響・映像)、カーナビ、通信機器などを中心に自動車事業を展開し、安定的な収益を得てきた。しかし、スマートフォンの普及でAV機器やカーナビの出荷が急減したことに加え、EVシフトによって自動車の構成部品が変わり、新たな投資負担や競争に直面する。パナソニックHDはEV市場の拡大を見込んで、車載用電池関連事業や車載用ソフトウエアなど、次世代車を想定した分野への投資に重点を置く。

 電機大手は、自動車関連事業に応用できる家電や半導体などの事業からも相次ぎ手を引いた。経営ポートフォリオにおける自動車関連事業の位置づけが変わる中、EVシフトという変革によって攻めるか引くかの選択を迫られている。今後、電機大手の自動車関連事業を軸とした業界再編が加速する可能性もありそうだ。